森上教育研究所 代表 森上 展安さん

一生つき合える友だちを見つけ、
多様な価値観との出会いを楽しもう
学んで、体験して、実り多い中高時代を

春から中高一貫校に進学する皆さんは今、あこがれの中学校生活に向けてさまざまな夢を描いていることでしょう。勉強やクラブ活動、行事はもちろん、先生や先輩、友だちとの新たな出会いも待っています。中高6年間を有意義に過ごすために必要な心構えを森上展安さんに聞きました。

多くの価値観に触れながら 一生の友だちを見つける

 新中学1年生の皆さん、進学おめでとうございます。間もなく始まる中学校での新しい生活に期待をふくらませていることと思います。現在、世界では大きな戦争がいくつも勃発しているほか、気候変動や自然災害によるさまざまな問題が起きています。それは日本に暮らす皆さんにも決して無関係ではありません。変化する時代の中で次々と押し寄せる世界のニュースに触れ、「なぜこうした問題が起きるのか」「自分たちはどうすればいいのか」など、日々考えてほしいと思います。世界の問題は皆さんの身近な問題でもあるからです。時代の変化という意味では、コンピューターサイエンスの発達も非常に大きいものです。目を見張るスピードで発展し、Chat GPTなど、少し前までは考えられなかった技術が次から次へと実現しています。
 皆さんはこうした変化と激動の時代に思春期を過ごすことになります。思春期は自分の考え方の軸を定める大事な時期ですが、今は多様な価値観や多様な生き方があふれる時代でもあります。中高時代に多くの価値観に触れてほしいと思います。そのために欠かせないのが友だちという存在です。生涯の中で人格形成や能力形成にもっとも影響を与えるのは思春期の友だちだという研究結果があります。自ら選択した中学校に入学することは、そこで将来を一緒に歩む友だちを選択することでもあります。ぜひ一生つき合える友だちを見つけてください。お兄さんやお姉さんのように〝斜め上〟の関係を結べる先輩とも交流を深めましょう。クラブ活動や生徒会活動など多くの機会があります。SNSなどで簡単に結びつきが生まれる時代だからこそ、目の前の友だちや先輩とリアルに喜んだり、悲しんだりしながら、自分なりの感性を育てていくことが重要です。

「体験」が成長の土台になる 自分から学び取る姿勢を

 中学・高校の6年間で何より重視してほしいのは「体験」です。コンピューターの発達で、バーチャルな間接的な体験は容易になりました。だからこそ、自分の体を使って実体験する機会が今まで以上に大事になっています。学校にはさまざまな行事やプログラムがありますし、学校の外でも多くの機会があるでしょう。それを受け身でこなすのではなく、自分から積極的に飛び込んでほしい。待っているだけではだめです。
 これまで皆さんが取り組んできた中学受験も、ある意味では受け身でやってきた面があると思います。塾の先生や保護者の方のサポートは相当に手厚かったはずです。しかし、中学からは何事にも自分から主体的に取り組むように意識を変える必要があります。大学入試でも主体性が問われるようになった今、自分から探しにいく、取りにいく、自分から学んでいくという姿勢が不可欠です。そうやって得た知識や考え方は、ただ受け身で覚えるだけの知識とは違ってきます。いきなりはできませんが、常に自分からという意識を持ち、自分で自分の人生を切り開いていくという強い気持ちが持てるようになると、自然に積極性や主体性が身についていきます。
 学習面では、この人と思える〝師匠〟を見つけるのがお勧めです。英語であれ、数学であれ、体育であれ、進学した学校には必ず尊敬できる先生、相性の良い先生がいるはずです。いいなと思う自分の感覚を信じて好きな先生との交流を深めると、先生はより多くの助言や教えをもたらしてくれます。それを素直に受け入れて力を伸ばすことができるのが中高の時期です。また、音楽や絵画、デザインなど、芸術的な感覚が鋭くなる時期でもあるので、美しいと思うものに身を委ねる機会も持ってほしいですね。アートに心を動かされる体験は、一見関連のなさそうな教科の知識の吸収や分析にも役立ちます。幅広い分野であらゆる体験を重ねて、人間的な成長につなげてください。

自然の中へ、海外へ 休日には特別な体験を

 春休みや夏休みなど、長期休暇中はいろいろな体験に挑戦できる絶好の機会です。中高一貫生は学校や塾で忙しい毎日を送ります。普段できないことは、休みの期間をうまく活用するといいでしょう。たとえば、大自然の中に出かけたり、海外に行ったり、そこでしかできない体験を重ねてほしいと思います。休みだから何もしないというのではなく、休みこそ未知の世界に飛び込んだり、自分の好きなことを追求したりしていく姿勢が大切です。
 海外には早いうちからどんどん出て行きましょう。中学では2週間程度の小さな旅を何度か経験して、高校になるともう少し長い海外研修や短期留学に出かけてみてはどうでしょうか。2週間ぐらい滞在すると、その街や国が好きになりますし、自分で動けるようにもなってきます。たとえば今、中学入学までの間に一度海外に行ってみるのもいいと思います。グローバルな動きがそのまま身近な生活に関係してくる今、海外で刺激を受け、多様な価値観に触れたり、その価値観の背景を知ったりすることは非常に重要です。
 高大接続改革で、大学入試も従来のペーパー試験から、ものの見方や考え方、調査の仕方、あるいはアカデミックなスキルをいかに身につけているかが問われるようになってきました。中高どこかのタイミングで、大学の授業を受ける機会はぜひ持ってほしいです。学校でプログラムがある場合はそれを活用すればいいですし、なければ海外大学のサマースクールに参加するといった方法もあります。そうすればグローバルな視点の獲得とアカデミズムの中で学ぶ体験が同時にできます。

アカデミズムを体感 未来に続く道筋を探ろう

 中学・高校で学ぶ内容は、大学以降で足を踏み入れるアカデミズムの入り口です。アカデミズムに到達する過程ともいえます。真の学問のすばらしさに触れる機会を中高生の間に持つことは大きな意味があります。中学の授業が始まれば、アカデミズムというものを常に頭に置いて学んでいきましょう。そして、その先にある職業についても少しずつ考えていくといいでしょう。企業の一員として働く道もあれば、医師や弁護士のような専門家になる道、アーティストとして歩んでいく道もあります。いろいろな生き方をたくさん見てほしいですね。自分の周りだけでは多くの職業を見ることができませんが、最近はどこの学校もキャリア教育を充実させています。こうした機会を活用しながら、頭の中にたくさんのイメージを持ってほしいと思います。
 また、中学受験を経て中学から高校へと歩んでいく道のりの中では、精神的に不安定になることもあるかもしれません。心細くなったり、寂しくなったり、なぜか悲観的になってしまうようなときは、そこから少し距離を置いて、まったく別の世界を体験するのがいちばんです。体づくりも大切です。心を支えるのは体ですから。運動部に入って体を動かすのがいいですが、そうでない人も中高時代は体をつくる時期ということを意識してください。そう考えるとますます忙しくなりますが、いつも前向きで欲ばりな自分であってほしいです。「あれをやってみよう」「これもやってみよう」と、何事にも意欲的に取り組む毎日を過ごしましょう。

新たなスタートに備える 入学までは種まきの期間

 中学受験が終わってから4月の入学までは中高時代の下地をつくる期間です。本をたくさん読んだり、映画をいっぱい観たり、自分が成長するための種まきをして過ごすのがよいと思います。受験では大変だったことや苦労したこと、うれしかったことがいろいろあったと思いますが、ここで1回リセット。自分の人生を自分で切り開いていくという決意を頭の中に置いて、新たなスタートラインに立ってください。そうすることでより充実した中高時代になりますし、よりよい人生になるはずです。
 受験が終わったらゲームばかりという人もいるかもしれません。これまでがんばったぶん、楽しむのはいいことです。ただし、自分で制限時間を決めてやるといった工夫も必要です。保護者の方とよく話し合って、ルールを決めてはどうでしょうか。デジタルネイティブの世代ですから、これからもデジタル機器とのかかわり方を考える機会は多くあります。そのときに自分できちんとしたかかわり方ができるようにしたいものです。「いかに上手に使うか、つき合うか」。そこを大事にしてほしいと思います。
 皆さんは中学入試を終えたところですが、ここ最近で大学入試は大きく様変わりしています。詰め込んだ知識だけではなく、主体的に学ぶことが求められるようになりました。先生から言われたことだけをやるのではなく、自分から学べる中学生になりましょう。切磋琢磨できる友だちも必要です。同じ本を読んで意見を言い合う読書会に参加したり、ディベートのクラブに入ったり。もちろん、学校の行事やクラブ活動も貴重な体験の場になります。中高一貫校という恵まれた環境でただ漫然と過ごしてはもったいないです。自ら体験する機会、周りの人から学ぶ機会を大事に、実りある6年間にしてほしいと思います。これから始まる皆さんの中高生活が輝かしいものになることを願っています。