医学部を目指す新中学生へのアドバイス トップ層が集まる近畿園の医学部入試 中高6年間で確かな学力と豊かな人間性を身につけよう

近畿圏の医学部入試は、国公立大を中心に高い人気を集めています。難関入試を突破するには中高時代に何をしておけばいいのか、大学受験に詳しい井沢秀さんに聞きました。

志願者数が増加し、“高値安定”が続く医学部入試

 2023年度の国公立大学一般選抜では、医学部志願者は2万3510人、私立大学の一般選抜は9万4538人と、国公立大は堅調な人気が続き、ここ数年減少傾向が続いていた私立大医学部は人気の復活が見られました。

 もともと近畿圏は、首都圏に比べて医学部人気は高い傾向を示しています。実は近畿圏に限らず、首都圏以外は全国的に医学部志向が強いのです。成績優秀者の進学先として、医学部は根強い人気があり、近畿圏でも〝高値安定〟の状態が続いています。

 医学部志願者が増加したのには、コロナ禍が大きく影響しています。医学部には一定数の志願者がいますが、2023年度はコロナ禍における医学への関心の高まりや、前年に比べて入試に関する制限が小さかったこと、また景気の低迷や先行きの不透明感が社会に広がり、資格志向が強まったことなどが考えられます。18歳人口より大学入学定員が多くなり、「望めばどこかの大学に入れる」時代にあっても、医学部入試は別格。今後も高いレベルでの競争が続くことは間違いないでしょう。

 また、地域における医師不足を緩和するため、各大学医学部では2008年度から臨時定員増が認められてきましたが、2025年度以降は、定員減少が見込まれています。加えて優秀な人材を早期に確保する目的で、総合型選抜や学校推薦型選抜を積極的に導入する大学が増えており、東京大学、京都大学など超難関大学医学部でも、そうした入試を実施しています。さらに医学部には「地域枠」があります。医師になった後、その地域で一定期間働くことを条件に入学しやすくしたり、奨学金を支給したりする制度で、多くの大学が設定。こうした状況から、近い将来一般選抜の定員枠が狭まると考えられ、そうなれば医学部入試は一気に難化します。さらに、今後AIがどんどん進化していくと、医師の仕事内容が変化していくことも考えられます。簡単な診断をAIがこなしたり、基本的な手術をロボットがこなすようになれば、必要な医師数が減少することもあるでしょうし、医師の仕事内容に魅力を感じなくなる人も出てくるでしょう。社会の変化が入試に影響を与えることを、ぜひ心に留めておいてください。

国公立大中心に 中高一貫校が有利に

 近畿圏の医学部入試は、首都圏と異なり国公立大学が牽引しているのが特徴です。近畿圏には、滋賀医科大学、京都大学、京都府立医科大学、大阪大学、大阪公立大学、神戸大学、奈良県立医科大学、和歌山県立医科大学など多くの国公立大学医学部が集まっていることもあり、全国の半数の私立大学医学部が集中する首都圏とはやや状況が異なります。

 ただ、私立大学医学部では学費を引き下げる大学が相次いでおり、そのことが医学部受験生の動向を左右しています。初年度の平均学費を見ても、以前は約1000万円かかっていたところ、現在は750万円程度になってきました。さらに順天堂大学290万円、東京慈恵会医科大学380万円、昭和大学540万円、東邦大学530万円などという大学も出てきており、一般サラリーマン家庭でも手が届くようになっているのです。近畿圏でも、2023年度から関西医科大学が初年度の学費を300万円に下げ、過去5年間で最多の志願者を集めました。国公立大学志向が強い近畿圏ですが、今後は私立大学医学部専願という選択肢が広がることも考えられます。

 一方、高校側から見ると、近畿圏での医学部人気は、公立校より国立や私立の中高一貫校の方が高くなっています。近年、公立の北野や天王寺、堀川などの成績優秀者は京都大学への合格者が多く、医学部の合格者はそれほど多くありません。合格者数ランキングを見ても、洛南、西大和学園など、私立中高一貫校が上位に並んでいることがわかるでしょう。

 中高一貫校が医学部に強い理由は、大きく二つあります。一つは、6年間かけてじっくりと学力を高めることができることです。高校受験のない中高一貫校は、大学入試に向けた準備という点で、大きなアドバンテージがあります。

 もう一つは、医学部志望者に対する手厚いサポートです。〝受験は団体戦〟とよく言われますが、医学部合格者を多く出している学校では、豊富な実績を通して多くの情報やノウハウを持っており、それが医学部志望生にとって大きな強みとなっています。また、その学校出身の医師や医学部生に話を聞いたり、さまざまな医療の現場を見学したりする機会も多く用意されており、医師としてのやりがい、仕事の大変さなど医師の仕事を明確にイメージできることもメリットです。そうした点から、医学部をめざすなら、医学部志願者の多い私立中高一貫校は有力な選択肢になるといっていいでしょう。一人で勉強していると、途中であきらめてしまうかもしれませんが、一緒に医学部をめざす仲間が大勢いれば、励まし合って勉強を続けることができるに違いありません。

全教科にわたって 確かな学力を身につけよう

 前述したように、大学入試の中でも医学部入試は難関です。あくまで目安ですが、国公立大学医学部に合格するためには、大学入学共通テストで85%以上の得点が必要な上に、二次試験との総合成績で合否が決まります。私立大学でも英語、数学、理科の3教科が基本で、高いレベルでの競争となりますから、取りこぼしは許されず、すべての教科での高い得点力が求められます。加えて2021年度から始まった大学入試改革で「思考力、判断力、表現力」が重視されるようになり、医学部入試でもそうした力を見る出題が増えてきました。こうした傾向は、今後も変わらないと考えられます。

 また医学部入試では、面接や小論文、グループワークやディスカッションなど、大学ごとに多彩な選抜方法が行われています。医療は人間を対象に、チームで取り組む仕事ですから、知識・学力だけでなく、「医師になる」という強い意思や医師としての適性、人間性を見たいという大学側の意図が現れているのです。新中学生となる皆さんが入試に挑む頃、どんな入試になっているかはわかりませんが、高いレベルの知識や学力に加え人間性が問われる試験になるのは間違いないでしょう。

 中学・高校の6年間で、皆さんはぜひ全教科にわたって堅実な学力を身につけてもらいたいと思います。特に英語と国語の強化を心がけましょう。グローバル化が進み、国際的に活躍する医師も増えるでしょうし、患者さんの希望を聞いたうえで必要な情報を伝達し、互いに納得できる方法で治療していくためには、高い言語能力が求められますから、国語力や記述力も極めて重要です。そう考えると、受験に不要だからと文系科目を切り捨ててよいということにはなりませんよね。

 そして、教科学習だけでなく人としての器を磨いてください。芸術に触れたり、留学したり、いろいろな人と接したりなど、さまざまな経験をして豊かな学校生活を送りましょう。物事を深く考える力を育み、やりたいことを突き詰めていく。大学、そしてこれからの社会では、そうした力が必要になるはずです。

 医学部を志望する動機はそれぞれでしょうが、基本的には「困っている人を助けたい」という気持ちがあるはずです。それを忘れずに、中高時代を充実したものにしてほしいと思います。

井沢秀さん