
生き方の軸をつくる中高時代
友だちや先生との出会いを大切に、
未知の体験と学びを楽しもう
間もなく中高一貫校に進学される皆さん、新生活の準備はできていますか。中学・高校の6年間は、長い人生の中でも特に濃密な時間になります。新しい学びや体験、友だちや先生との出会いを通じて、将来進むべき道を定めていく時期でもあります。有意義な中学・高校生活を送るためのヒントを森上展安さんに聞きました。
心と体をつくる時期 まずは良い習慣の確立を
新中学1年生の皆さん、進学おめでとうございます。新たにスタートする中学校での生活に期待をふくらませていることと思います。現在の社会を見渡してみると、戦争や異常気象といった世界的規模の問題や、生成AIに代表されるITの進展など、目まぐるしい変化の時代といえます。コロナ禍では日常生活が制限される経験もしました。皆さんは世の中の変化や脅威を肌で感じている世代だと思います。
しかし、中学1年生、2年生という時期は、人生で最も楽しく過ごせる季節です。思春期の楽しさを大いに味わうために、友だちをつくり、先生に親しみ、変化を受け入れることに積極的になってほしいと思います。
新しい環境では、人間関係のトラブルが発生することも少なくありません。関係がうまくつくれず、人を嫌いになる場面があるかもしれません。ただ、人を嫌いになると、その後の一生が貧しくなることも自覚してほしいのです。相手が好きで相手からも好かれる関係のつくり方を学んでいかなければ、つらい思春期になってしまいます。そう、最初が肝心なのです。
こうしたことも含めて、思春期は生き方の軸をつくる時期です。だから昔の人は若い頃から詩歌管弦、今でいうアートを楽しんだのでしょう。あるいは教養を深めるといったことでしょうか。心を豊かにする時間を大切にしてください。
体づくりも大切です。体が健康な状態であれば、気持ちも積極的になるからです。心をつくり、体をつくる。そこを意識して良い習慣を確立することが中1・2の過ごし方としては最も重要です。中高一貫校であれば、校内には多くの先輩がいて良いモデルになると思います。自分に合ったモデルを見つけて、その先輩とクラブをがんばる、その先輩の勉強法を学ぶといったことができればいいと思います。
受験勉強とは異なる 問いを探す旅が始まる
これまでの中学受験に向けた勉強は答えを出すことが中心でしたが、これからは問いを探す旅になります。どういう問いを立てるのかが勝負どころです。今までの学習の仕方を一旦横に置いて、胸が踊る新しい学びや学問の世界のおもしろさを味わいましょう。自分で問いを立てるという方向性で学んでいくと、やらされる勉強とは違う楽しさに出合えます。ぜひそういう姿勢で中学からの勉強に取り組んでください。
学問は学校や先生から学ぶだけでなく、実は普段の生活の中にたくさんあふれています。文化に触れたり、課外活動に参加してみたりするのもいいでしょう。あるいは、中高生向けの塾や予備校に通うのもいいかもしれません。学者のような先生のおもしろい授業が勉強の発火点になることもあります。学校に限らず、皆さんの身の回り、つまり学校と家の間に社会があって、そこもまた大切の学びの場ということを体験してほしいと思います。
コンピューターサイエンスが発展し、実際の授業の中にもさまざまな形で取り入れられるようになりました。便利ではありますが、バーチャルの部分がどうしても多くなるので、自分の五感を交えた体験がこれまで以上に重要になります。体験から得る学びは、待っていても身につきません。自分で積極的に体験して初めて多くを得ることになります。みずから進んで行動しましょう。
例えば、海外に行くことも体験の一つです。普段自分が見ているのとは違う世界に身を置くことは大きな刺激になります。学校で海外研修や留学のプログラムがあれば、ぜひ利用してください。自分で行くよりもプログラムが充実していたり、料金が抑えられていたりといったメリットがあります。実は私学には、生徒全員を対象にしたプログラムだけでなく、希望制のプログラムをたくさん用意されています。うまく利用して積極的に参加すると多くの体験ができます。
体験の場に飛び込んで 学びを深めるチャンス
精神的な成長を考えるうえでは、自然の中で過ごす時間も持ってほしいです。自然に囲まれていると、自分という存在について謙虚になれます。都会育ちの皆さんにとっては、自然は多くのことを学ばせてくれるありがたい存在です。機会をとらえて、これまでできなかった自然体験を楽しみましょう。
受験勉強に一生懸命取り組んできたものの、入学までに学習習慣を崩してしまう人もいると思います。入学前の課題など、学校から課されている宿題はあくまでも一つのサジェスチョンです。しっかりやることは大事ですが、宿題さえ片付けておけばいいという姿勢ではなく、自分が楽しい、おもしろいと思える勉強に取り組んでください。
歴史が好きな人は歴史小説を読んでみる、算数が好きな人は数学について書かれた本に挑戦してみる、それも立派な体験です。受験勉強の中で覚えたことは忘れてしまっても、自分が興味を持って体験したことは忘れません。入学までの今の時期は学びを深める絶好のチャンスです。
時間があると、ついゲームばかりやってしまう人もいると思いますが、それより楽しいことはたくさんあります。普段できない体験をするという意味では、先ほどの海外旅行もそうですし、家族で山登りというのもいいです。読書もそうです。受験を終えた今だからこそ、自分を見つめ直す機会を持ってください。一方で、これまで積み上げてきた学習習慣をできるだけ維持すれば、中学に入学した後も必ず生きてきます。コツコツと学習を続ける時間も大切にしましょう。
好きなことを探しながら 興味の領域を広げよう
時代の変化の中で首都圏の学校でも多様性が進み、中国や韓国など海外にルーツを持つ生徒が増えています。彼らは早くから日本や海外の大学への進学を目標に努力しています。バックグランドが異なる同世代の人たちが何を考えているのか、どう生きようとしているのかを知り、その中で自分はどうしたいのかを考えることは大切です。中学受験が終わったばかりで、まだまだ先のことと思いがちですが、自分の軸になる好きなことを探しながら、6年後の大学進学についても少しずつ考えていくことをお薦めします。
もちろん、大学に入学しておしまいではありません。どんな仕事をしたいか、どんな職業が自分に向いているか、大学進学のさらに先を見据えながら考えるとよいでしょう。大学受験に向けた勉強は、女子は中3頃から、男子は高1の終わり頃から始めるのが一般的です。それまではどの教科も基本となる考え方を身につけるのが大切です。
数学の定義や物理の法則など、最も重要な概念が持つ奥行きや方向性は中1や中2のうちから示されます。それを楽しみながら、できれば少しでも深く学んでおくと後で生きてくるでしょう。試験で点数を取るためではなく、楽しく原理を学んだり、こんなところに応用されていると知ったりする驚きとともに勉強ができれば、関心の領域を広げることができます。
「おもしろい」「楽しい」「もっと知りたい」という気持ちを大事に、興味関心の領域をどんどん広げてください。その中から将来につながるものが見つかるかもしれません。先日、アメリカのプライベートスクールに視察に行ってきましたが、学校として一番大事にしていることは「好奇心」と言っていました。皆さんもいろいろなことに興味を持てる好奇心旺盛な中学生になってほしいと思います。
変化に対応できる親に 保護者も切り替えを
保護者の方も、このタイミングで気持ちを切り替えて、お子さんの人生を一歩引いて支える側に回りましょう。特に中学受験を二人三脚で乗り切ってこられた方はなかなか手を離せず、不安になったり、余計なことを言いたくなったりするかもしれません。そこは上手にご自身を変えていったほうがいいですし、子どもの変化に対応できる親になってほしいと思います。学校の先生に相談しにくいことがあれば、塾や習い事の先生に相談して精神面でのアドバイスを受けるのもお薦めします。
中学受験には合格・不合格があり、保護者の方はそれを成功・失敗と見てしまいがちです。しかし、それは中学受験に限っての結果であり、お子さんにはまだまだ先の未来があります。前向きに次のステップへ進みましょう。入学前になるべく早い仕切り直しをお薦めします。子どもは気落ちを切り替えているのに親のほうがモヤモヤを抱えたままというパターンは少なくありません。
もちろん、それは第一志望校に合格した場合も同じです。親子とも一度すべてをリセットして新しいスタートラインに立ってください。お子さんはお子さんの目標に向けてがんばってもらい、保護者の方はご自身の身の処し方を考える時期です。まだ子離れはしなくていいですが、親としてのあり方を見直すことがお子さんの成長につながります。
いよいよ中高一貫校という恵まれた環境での新生活が始まります。新中学生の皆さんは、日々の勉強や学校行事、クラブ活動から多くを学び、自分のものにしてください。これから始まる6年間が充実したものになることを願っています。