医学部を目指す新中学生へのアドバイス 落ち着きを取り戻しつつも医学部人気を支える女子志願者 多様な環境が整った中高一貫校で医師の素養を磨こう

大学入試の中でも最難関である医学部入試。2024年度の結果を振り返りながら、今後の動向や医学部志望者に必要なことを、大学受験に詳しい井沢秀さんに聞きました。

私立大志願者10万人超え 浪人を避けた併願数の増加か

 2024年度の医学部志願者は、国公立大学は若干減少したものの、全体で約2%減程度なので、ほぼ前年並みと言ってよいでしょう。一方、私立大学は105,426人となり、4年ぶりに10万人を超え、前年度から10,792人増(11.4%増)となりました。高校生が様々な分野への視野を広げにくかったコロナ禍で、医療分野が集中して注目され、2022年度、2023年度と増加し続けてきた志願状況ですが、全体では少し落ち着きを取り戻したようです。

 本来なら、もっと減少してもおかしくありませんでした。というのも、2024年度は受験人口=18歳人口が3%以上減少した年です。また、周知のように2025年度入試から新課程入試となります。共通テストで「数学」と「国語」の試験時間が長くなると同時に問題のボリュームが増えます。さらに「情報」が加わることで、浪人を避けるために難関とされる医学部受験を諦める受験生が多くなるのではと予測されたからです。しかし、前年並みに収まったということは、やはり昨今の医学部人気が続いていることを示しているのでしょう。さらに、私立大学の併願数を増やして、現役合格を目指したという受験生側の対策の結果だったとも考えられます。

一般選抜の定員減少で 難化する傾向を注視

 また、医学部の定員は、地域における医師不足を緩和するため、2008年度から臨時定員増が行われ、毎年延長して継続しています。ただ今後、医師過剰ということが起これば、定員の削減が考えられるので、これから医学部受験を考えるご家庭では注視が必要です。加えて優秀な人材を早期に確保することを目的に、総合型選抜や学校推薦型選抜を積極的に導入する大学が増えており、医学部もその対象となっています。東京大学や京都大学など超難関大学医学部でも学校推薦型選抜を実施しています。臨時定員増が続いたとしても、総合型選抜や学校推薦型選抜の定員増によって一般選抜の定員枠が狭まり、医学部入試は難化が進むことが考えられます。また、AIの進化によって今後、医療現場での仕事内容も変わってきます。社会の変化が医学部入試にも影響を与えることも常に念頭におくことが必要です。

 学費が高いというイメージの強い医学部ですが、実は学費を下げるという傾向が続き、学費の値下げを実施した大学は人気を集め、難易度と連動していきます。それが顕著なのが順天堂大学で、私立大トップの慶應義塾大学や自治医科大学の間に割って入る勢いです。大学の戦略的にも、より優秀な学生に入学してもらうことで入学後のリメディアル教育も不要となりますし、ハイレベルな教育研究につながります。こうした大学の姿勢も、大学選びの視野にいれるとよいでしょう。ただ、値下げをしても一般家庭にとってやはり医学部の学費はハードルが高いことに変わりません。

 そこで利用したいのが、医学部特有の「地域枠」です。「地域枠」は、医師になった後にその地域で一定期間働くことが条件となりますが、奨学金が支給されるなど経済的に医学部受験を迷う受験生にもチャンスが見込まれる制度です。「地域枠」というから地方大学が中心と思われるかもしれませんが、首都圏の大学医学部でも、獨協医科大学や埼玉医科大学などで設定しているので、将来の働き方も踏まえて検討してみるのもよいでしょう。臨時定員増が続いたとしても、一般選抜の定員枠が狭まり、医学部入試は難化が進むことが考えられます。

私立大学合格者数で目立つ 首都圏女子校の実力

 首都圏の医学部受験に絞ると、従来、国公立大医学部がいずれも難関なこと、さらに大企業の本社機能が首都圏に集中して幅広い選択肢の中から将来を見据えられることから、国公立大医学部志向はそれほど強くありませんでしたが、コロナ禍で医療系学部の人気が高まった影響は続き、合格者は増加傾向にあります。

 国公立大学医学部合格者数をみると、開成は合格者が前年を15人上回る53人となり、前年の3位から1位になりました。東大12人、京都大4人、東京医科歯科大7人など、難関医学部に多くの合格者を輩出しています。桜蔭は、前年と同じ合格者数ながら、開成に抜かれて2位。それでも、東京大は開成と並ぶ12人で、東京医科歯科大も12人と、難関医学部への強さを見せつけます。3位の海城は2人増、5位の豊島岡女子学園が11人増、7位の聖光学院が3人増など、いずれも合格者を増やしています。その一方で公立校の健闘も目立ちます。

 しかし、私立大学は私立中高一貫校の独壇場で、ベスト20のうち、19校を占めます。公立校は日比谷のわずか1校のみ。1位は前年を30人上回って2位から上がった豊島岡女子。慶應義塾大学3人、東京慈恵会医科大学8人、日本医科大学18人で、私立大医学部御三家は29人という結果です。桜蔭は22人減で前年の1位から順位を下げましたが、慶應義塾大学21人、東京慈恵会医科大学14人、日本医科大学12人で御三家は47人にも上りました。ちなみに慶應義塾大の合格者は全員が現役です。近年の女子の医学部志向の強まりを背景として、上位2校以外にも、5位白百合学園、16位吉祥女子、20位雙葉がランクインするなど、女子校が医学部に強いというのも首都圏の特徴のひとつといえるでしょう。

 こうした受験状況と並行し、医学部をもつ私大による高大連携協定の動きが活発です。たとえば、北里大学・大学院等を設置する学校法人北里研究所と順天中学・高校をもつ順天学園は、教育連携を行うことを目的に2026年からの法人合併を発表しています。他にも順天堂大が宝仙学園の中学校・高等学校(順天堂大学系属 理数インター中学校・高等学校)を系属校とする高大連携協定を締結した他、2024年10月現在、48校と連携協定を締結していますが、特に桜蔭や豊島岡など中高一貫校の中でも女子校とのつながりが目立ち、女子校の医学部人気の背景がうかがえます。

整った環境を活かして 学力と人間性を高めよう

 中高一貫校が医学部受験に強い理由は、医学部受験のためのサポート体制が整っているなどいくつかあります。今、医学部入試で「面接を課さない」という大学は皆無です。なぜ医師として働きたいのか、医学部に臨む姿勢や態度が求められているからです。そのための人格形成につながる情操教育も、中高一貫校なら時間をかけて取り組めます。

 「成績がよいから」「医師の家系だから」と医学部を目指す人もいると思いますが、中高一貫校では6年間をかけて様々な体験をしながら、「本当にそれでよいのか?」と自問する時間がたっぷりあります。トップ校は特に先輩医師というロールモデルが多いことなどから、実際に現場の話を聞く機会や授業での取り組みもあり、医師に必要な人間力の大切さに気づくチャンスもあるでしょう。逆に、入学時は医学部志望でなくても、6年間の経験を経て「人の役に立ちたい」と多くの選択肢の中から医師への道に方向転換する人もいます。

 高校受験を挟むと、3年間での詰め込み教育が行われがちですが、共通テストで問われるのは思考力や判断力です。中高一貫校では、中学卒業時に卒論を課す学校も多く、探究学習も盛んなため、思考力が培われます。高いレベルでの知識や学力を蓄えながら、豊かな人間性を高めてください。今、多くの中高一貫校は、実習や設備、留学など各種研修制度も十分に整っています。中高一貫校に入学したのであれば、こうした環境をフルに使い、その学校を信じて6年間を充実させて過ごしてほしいと思います。

井沢秀さん