森上教育研究所 代表 森上 展安さん

何者にでもなれる中高時代
「真善美」の基準を持とう

この春、中高一貫校に進学される皆さんは新生活への期待に胸をふくらませていることでしょう。中学・高校時代は自身のアイデンティティを確立し、将来への道を開く大切な時期ですが、長いようであっという間に過ぎていくものです。充実した毎日を送るために必要な心構えについて、森上教育研究所代表の森上展安さんに聞きました。

自己を確立する時期 指導者との出会いを大切に

 新中学1年生の皆さん、進学おめでとうございます。中学校での生活がいよいよ始まります。入学後、特に中学1年生・2年生の時期は、指導者との出会いを大切にしてください。たとえば、担任の先生や校長先生からのメッセージがそのまま将来につながることもあります。振り返って、「あのときの、あの先生の言葉が自分の人生を形づくった」という大人は少なくありません。やわらかな心だからこそ、素直に響くのだと思います。
 同時に、15歳ごろまでは自己を確立する時期でもあります。何者かになろうとしている自分自身を見つめ、何事にも積極的に向き合うよう、常に意識して過ごしましょう。昨今は誘惑が多く、その最たるものがSNSなどデジタルの世界です。すべてを否定するわけではありませんが、そこにのめり込むのは避けてください。そのためにも、一つの軸として「真善美」という基準を持つことをお勧めします。
 「真」とは真心であり、自分が良いと思える気持ちのことです。そして「善」は愛情を、「美」は調和を指します。あらゆる学びや体験に対して、「真善美」の有無を意識してみてください。そうすれば、デジタルに触れる時間が浪費に終わることなく、新しい価値が生み出されるはずです。

積極的に「美」に触れ 体験を通して学びを深める

 学校生活を送る中で、進学した学校のカラーや価値観に染まっていくのも私学ならではの魅力だといえるでしょう。「開成らしさ」「麻布らしさ」が表れる時点で、一つの属性として「何者か」になっているわけですから、それを大事にしてください。
 「真善美」の視点から考えると、中学1年生・2年生では「美」、つまり芸術に触れる機会を積極的に持ってほしいものです。多感なこの時期に音楽・小説・映画などさまざまな「美」を体験すると大いに刺激を受け、心も大きく成長するからです。
 SNSばかりに時間を費やすのではなく、ぜひ自分自身の体験の上にデジタルを生かしてください。体験を抜きにして学びが深まることはありません。中学入学は新しい学びの入口に立つことを意味します。友人と語り合い、議論をするときも「美」が中心にあれば、その深まりが違ってくるものです。
 家族と過ごす時間も貴重です。日々の食事での団らんや、旅行などのファミリーイベントを季節ごとに楽しむのが理想です。
 イギリスの名門パブリックスクールであるイートン・カレッジの生徒は普段は寮で生活していますが、長期休暇には帰省し、夕食の時間には各家庭で議論が繰り広げられます。家族で食卓を囲みながら、議論の仕方を学び、世間を広く知っていくのです。
 中学時代には親子の価値観が大きく離れますが、「大人」として多くのことを親から学ぶ時期でもあります。親の意見に触れ、それに対する自分の考えを議論する家族の時間は、非常に有意義なものです。 

自立へ向かう準備期間 親子で意識を高く持つ

 最後は保護者の方にお伝えしたいのですが、家庭の会話を普段から大事にしてください。中学受験では親が子どもに何かをさせる関係でしたが、中学進学後は子どもの自立をどう支えるかがその後の成長の鍵となります。
 ともに寄り添う姿勢は変わらなくても、達成目標が明確な中学受験とは異なり、これからは子どもの自立という漠然としたものを支えることになります。多感で難しい時期でもあるため、大学進学という新たな達成目標はいったん脇に置き、子どもの心を見失わないようにしてください。
 親と子どもの触れ合いを大事にし、なるべく多くの時間を共有しましょう。たとえば、旅先でさまざまな体験を共にすれば、子どもは「大人に守られるありがたみ」に気づき、家族の良さを実感するものです。
 わが子に密接にかかわることも、家族で一緒に非日常を体験し、共に感動するのも中学1年生・2年生が最後のチャンスです。保護者の方も、お子さんの成長に合わせた適度な付き合い方を心がけ、実りのある時間を過ごしてください。
 中高6年間では身体的にも精神的にも大きく成長しますが、自身の中に「核」ができるのは中学1年生・2年生です。ここでの経験が土台となり、そこからいろんな方向へと伸びていきます。何者かになろうとする時期、何者にでもなれる時期なのです。ぜひ、親子で意識を高く持ち、毎日を有意義に過ごしてください。