
安定の医学部人気の女子校と興進学校の台頭
大学入試の中でも最難関と言われるのが医学部入試でしょう。2025年度入試の結果を振り返りながら、今後の動向や医学部志望者の心構えについて、大学受験に詳しい大学通信 情報調査・編集部部長 井沢秀さんに聞きました。
新課程入試元年の医学部入試は 共通テストの平均点が影響
医学部人気は毎年安定しています。予備校関係者によると、2025年度入試に向けた模擬試験でも医学部人気は顕著だったそうです。ただ、国公立大学は共通テストで平均点が上がったゆえに目標ラインも上がり、警戒したためか、最終的に医学部を志望した受験者数は、前年度の約2万3000人から1000人ほど減り2万2000人ほどになりました。地域的には近畿圏で増加したものの、関東圏ではこの減少傾向が強く、東京大学、筑波大学、千葉大学などいわゆる難関大学が敬遠され、全体的な志願者減に結びつきます。
これは、新課程入試の初年度となったことが影響しています。これまでも、入試改革が行われた年は入試問題がやさしくなるという傾向があり、平均点が上がっています。2025年度入試もその例外ではなく、平均点が高くなったゆえに受験生が私立大学の医学部に流れたり、医学部を避け薬学部や歯学部、理学部に流れたとも考えられます。
長らく歯科医師が過剰になって抑制気味だった歯学部受験も、歯科医師の高齢化に伴う需要が期待されるため、医学部受験者が選択肢に考える傾向があるのか、近年、歯学部は増加傾向にあります。また、最近は医療工学系という選択肢もあるようです。
懸念された新科目「情報Ⅰ」については、初年度ということもあり、通常の学習で十分対応できるものでしたが、情報系は今後、医療分野で欠かせない知識となるので、引き続き注視して学ぶ必要があります。
また、共通テストは年度だけでなく科目ごとにも難易度が変わるため、平均点が大きく下がることもあります。このような事態となったときに肝要なのは、振り回されないことです。難化したときは他の受験生もできていないので、よく見極めて自分にとって最適な判断をしてください。
一方、私立大学は前年度の約10万5000人から約10万6000人に増加しました。私立大学の共通テスト利用入試が増えているので、国公立大学志望でも私立大学を併願しやすくなっているということもありますが、特に関東圏で私立大学の人気が高いのは、国公立大学に比べて私立大学がたくさんあることや私立大学の学費を払える富裕層が多いこと、国際医療福祉大学や順天堂大学、自治医科大学など学費が安い大学が多いという事情もあります。
2027年度からいよいよ 医学部の定員削減へ
総合型選抜や学校推薦型選抜などいわゆる年内入試が、医学部受験でも増加しています。こうした年内入試への対応については、6年間という教育期間だけを考えても中高一貫校が優位ですし、実際、中高一貫校では年内入試を視野に入れた多彩な取り組みがされています。ただし、医学部以外では学力試験を課さない年内入試が多いですが、医学部では指定校推薦でさえも学科試験が課され、やはり確実な学力が求められています。「年内入試を目指すから探究学習にだけ注力すればよい」などと考えず、しっかり勉強することも大切です。
医学部入試のトピックとして知っておいてほしいのが、2027年度から行われる定員削減です。医師不足が解消されつつあることや、18歳人口の減少に伴いこれまでと同様の定員数では学生の質が低下すると考えられているからです。この定員削減は毎年徐々に実施され、まず地域枠の定員削減から行われると考えられているようです。現在の中学生が大学受験をする頃にはかなり進行し、影響が出ることでしょう。一方で、医師が少ない地方の大学では「臨時定員」という枠があり、削減しないことも予測されます。2027年度入試では大きく削減されることはないと思われますが、医学部受験をする人は、今後の動きを注視する必要があります。
中高一貫校の豊かな環境が 医学部志向を育む
医学部の定員削減で強みを発揮するのは、中高一貫校でしょう。私立大学医学部の高校別ランキングでも関東圏では100人単位で医学部合格者を出す高校もあり、関西圏で100人超えの高校は四天王寺のみと考えると、関東圏の突出した私立大学医学部志向がわかります。国公立大学は西高東低、私立大学はその逆の傾向があり、単純に大学数の差もありますが、富裕層や医師家庭などが関東圏に集中していることも考えられます。

国公立大学医学部医学科合格者数トップの開成は、12人増加で2位の桜蔭と差をつけ王者の地位を守ります。注目は、渋谷教育学園幕張の11人増でのトップ3入りと、これまでトップ20さえ圏外だった江戸川学園取手のトップ20入りです。(11位)江戸川学園取手は高校設立時から医科コースを設けていますが、医師の卒業生を招き講演会を行うなどモチベーションを上げたり、医療に関する記事を読んで論文を書かせるなど普段の学校生活にも医学部受験に向けた取り組みがなされ、2016年からは中学にも医科ジュニアコースを設置しています。こうした取り組みが結実したと考えられるでしょう。
一方、私立大学医学部医学科合格者数では桜蔭と豊島岡女子学園が1・2位を占め、女子校が圧倒的な強さを誇ります。女子校では医学部受験に特化したコースを設けていない学校がほとんどですが、実質的に医師家庭が多いなど医学部を目指しやすい環境にあると考えられます。また、医学部受験のコースがなくても、現在の医学部入試の面接は複雑化しており、志望者に向けた対策をしっかり行えるのは、中高一貫校だからでしょう。医学部に求められる倫理観や医師になる目的意識、医療系の時事知識の蓄積などは6年間という長い年月をかけて育成しなければ、一朝一夕には身につきません。
女子校の好成績に見られるように、優秀な女子の医学部志向が目立ちます。80年代に男女雇用機会均等法が施行され、理系に進む女子が増えたものの、世界におけるジェンダーギャップ指数の順位にも現れているように、日本の一般企業や研究業界ではまだ男性優位な構造的課題が多く、社会で活躍しようという女子は、個人の能力や技術次第で戦える医師に魅力を感じるようです。
勉強だけでない「医師になる」 という強い意思を持とう
ただし、医師となるためには相当の覚悟が問われます。それが全医学部で面接と小論文が課される所以で、人を相手にする職業の中でも特に高い人間性が必要とされているからです。「勉強ができるから医学部に」という受験生がいまだに少なくありませんが、「優秀だから」という理由だけで医学部に進学しても、「医師になる」という強い意思のない学生はドロップアウトを余儀なくされます。それだけ、医学部での学びはハードだからです。医師にも社会性や非認知能力などが求められる今、高校でそれらの感性を養う教育が行われているかどうかはとても重要ですし、勉強以外にも、さまざまなことに興味・関心をもって取り組み、人間性を育むことが大切です。また、医療現場でもAI活用がますます進んでいくので、医療の技術革新に対応できるような柔軟性も養ってください。
大学通信 情報調査・編集部部長
井沢 秀さん
1964年神奈川県生まれ。明治大学卒。1992年大学通信入社。入試から就職まで、大学全般の情報分析を担当。新聞社系週刊誌や経済誌などの執筆多数。
