AIエンジニアとして2つの企業を立ち上げる一方で、SF作家としての顔も持ち、さらに都知事選に出馬する政治活動家でもある安野貴博さん。面白そうだと思ったらまずはやってみるという姿勢は幼い頃からのもので、現在もそのチャレンジ精神は健在です。どんな中高時代を過ごし、現在に至ったのかを語ってもらいました。

TOPIC-1

プログラミングをはじめいろいろなことに挑戦

中高時代はどんな生徒だったのですか。

安野 基本的には落ちこぼれで、成績は下から数えた方が早いという位置にいました。その代わり、プログラミングにはまったり、テニス部に入って硬式テニスに打ち込んだり、開成にはなかった演劇部を創部したり、高校生クイズに出たりしていました。中高のうちにやれることはやっておこう、面白そうなことはやっておこうとは思っていました。「迷ったらやる!」と決めていました。ゼロから1を作るということに大きな喜びを感じるタイプで、中高時代から変わっていない気がします。

プログラミングが趣味だったのですか。

安野 ソフトウェアを作るのが好きでした。プログラミングを始めたのは小学3年くらいのときです。父親が自分で使うために買ってきたWindows 98を実効支配することに成功し、パソコンに搭載されているソフトウェアを片っ端から開いては触っていました。Excelの数式をいろいろいじっているうちにVBAというプログラミング言語にたどり着きました。これを使うと自分でソフトウェアが作れるということで、独学でプログラミングを覚え、ゲームを作ったりしていました。その延長線で中高時代もプログラミングにはまり、プログラムを作って友だちに紹介したりしていました。

プログラミングコンテストのようなものに出たのですか。

安野 何か賞をもらった気がしますが、コンテストとかに出るより、自分の好きなものを作るのが楽しかったような記憶があります。ネット上で知り合った熊本県と三重県の高校生と僕の3人でWebサービスを作ったこともありました。「ねみんぐ!」というサービスで、画像をアップロードすると、その画像に合った名画風のタイトルをつけて返すというものです。当時は現役高校生が作ったWebサービスということでかなり話題になりました。学校の中だけにとどまらない外の世界を知るチャンネルがあったということは、個人的に良かったと思っています。

TOPIC-2

刺激を求めて活動 世界の広さを実感

進路に関してはいつ頃から、どのように考え始めたのですか。

安野 成績は悪かったのですが、高3になって受験勉強を始めたら何とかなったという感じです。高3の最初はアメリカの大学に進学しようと思っていました。それで留学についていろいろ調べていくと、お金の問題以外にも、1年生からの学校の成績が大事だということがわかりましたが、時すでに遅し。日頃の勉強の大切さを痛感しました。

大学ではどんなことに打ち込んだのですか。

安野 情報系に進もうと理科Ⅰ類に進学しましたが、駒場時代(2年生まで通う駒場地区キャンパス)はいろいろな仲間たちとワイワイやっていました。ESSという英語を話すサークルや、学生演劇のサークルにも所属しました。帰国子女がたくさんいる演劇サークルに紛れ込んだときには、3ヶ国語を普通に話せる人たちがたくさんいて、世の中にはすごい人たちがいるのだなと感心した覚えがあります。また、これもどういうわけか法学部の学生団体に紛れ込み、工学部生にもかかわらず法学部の学生と一緒にブルネイの法学部生と交流する海外研修に参加したこともあります。ブルネイの法体系や生活は、初めて知ることばかり。世界の広さを実感しました。

大学に入っても、いろいろ挑戦する姿勢は変わりませんね。

安野 そうですね。新しいことに触れたいとか、刺激を求めるタイプであることは変わりませんね。人から誘われたらとりあえずやってみるかって……。

進学する学部学科はどのように決めたのですか。

安野 情報系のことが学べる学科は東大にはけっこうあります。理学部には情報学科がありますし、工学部のなかにも電気電子工学科や計数工学科などがあります。システム創成学科を選んだのは、やはりAIの分野で有名な松尾豊先生の存在が大きかったと思います。駒場時代に、本郷キャンパスの先生たちによる授業があるのですが、松尾先生からは、ソフトウェアがどんどん進化してAIが世の中を大きく変えていくことになるだろうという話を聞き、本当にそうだと思ったので、ぜひ松尾先生の研究室に行きたいと思ったのです。

どのような研究をされたのですか。

安野 日常で使われている日本語を読んだり書いたりできる自然言語処理と呼ばれる手法を用いた研究が中心です。国会の議事録のデータセットを使って、どの議員がどんなトピックをより多く発言しているかといったことを可視化するようなツールを作ったこともあります。まだAIを使った高度な技術は開発されておらず、卒業する頃になってようやくディープラーニングが注目されるようになってきた時代でしたから、かなり原始的な処理ではありました。

卒業論文はどんなテーマだったのですか。

安野 自然言語処理からは微妙に離れますが、クラウドソーシングのデータセットを使って、発注者と受託者を上手くマッチングする仕組みを研究しました。一般的なマッチングは、気に入った受託者や発注者に対して星をつけ、その星の数で評価するものですが、日本ではなんとなく★5をつけてしまうことが多く、正確な評価がされづらいという課題がありました。そこで、評価の高い人の星5つと評価の低い人の星5つには異なる重み付けをしたところ、普通のマッチングよりも良い結果が出ることがわかりました。