TOPIC-4
AIの可能性に魅了され企業でAIスキルを磨く
学部・学科の選択はどのように考え、決定したのですか。
千葉 入学当初から工学部志望で、高校時代からの夢である航空宇宙工学科に進もうと考えていました。ところが大学2年のときに人工知能を研究する松尾豊教授の講演を聞く機会があり、AIに関わる世界も非常に面白いと思うようになりました。松尾研があるのは同じ工学部のシステム創成学科。航空宇宙工学科かシステム創成学科で迷いましたが、最終的にシステム創成学科を選びました。いろいろな理由がありますが、学部前半でビジネスに関わった経験はやはり大きいと思います。様々な企業の方とお話ししているうちに、テクノロジーとビジネスの間で自分が何か活動できそうな気がしていたからです。航空宇宙工学は超巨大産業ですから、自分1人でテクノロジーもビジネスも手がけるのはなかなか難しいのが現実で、両方に関わることができるのはAIの方だろうとも考えました。松尾先生がよく「AIで起業しなさい」と話されていたことも響いています。
いよいよAIのスキルを身につけていくわけですね。
千葉 正式に松尾研に所属するのは大学4年からですが、その前からいろいろな形で松尾研に出入りしていました。松尾教授の講演後は、松尾研が半年ごとに無料で提供しているAI入門講座「GCI」を受講してデータサイエンスの基礎を学んだり、AIやプログラミングの授業で勉強したりしていました。「GCI」は1000人くらいが受講する人気講座で、AIの性能を競うコンペシィションがあり、上位者は優秀生に選ばれ松尾教授と食事ができる機会があります。何度か優秀生に選ばれたほか、大学2年の後半からは松尾研の勉強会にも参加していましたから、配属前から松尾研と関わりながらAIの勉強を続けてきたことになります。
大学の勉強だけでAIの会社を起業できるだけのスキルが身につくものなのですか。
千葉 ビジネスコンテストの活動の後半は、AIスタートアップのエアークローゼット社やサイバーエージェント社で長期インターンシップという名目のアルバイトをしており、そこで実務ベースのAIスキルなどを学べたことが大きいと思います。サイバーエージェント社では1年近く働きましたが、AIのプログラムを書いたり、AIに学習させたりするような仕事をさせていただいたことで、ビジネスで使われるAIがどういうものかを学ぶことができました。振り返ってみると、ビジネスコンテストのサークルを辞めた2年の後半からは、大学と企業でずっとAI漬けの生活を送っていたような気がします。
TOPIC-5
AIの可能性を信じ仲間とともに起業へ

それが起業に結びつくわけですね。
千葉 AIを勉強しているときは、エンジニアリングを自分で手がけること自体が楽しくて、正直起業しようとは思っていませんでした。どちらかといえば、エンジニアとしてのスキルを高めて、GoogleやAmazonのようなIT企業でスペシャリストとして活躍したいと思っていたくらいです。それほどAIエンジニアリングが楽しかったのです。
では、どんなタイミングで起業されたのですか。
千葉 やはり松尾教授や、松尾研出身で起業している先輩などからの助言が大きかったといえます。エンジニアリングも好きでビジネスも好きだという私に「だったらAIの会社を作って、どちらもやれば」と言っていただいたことが、背中を押してくれました。「GCI」を一緒に受講していた仲間で共同創業者となる同じ研究室だった寺澤滉士良(てらさわこうしろう)君と2人で、毎週日曜日に集まっては「何かビジネスやろうよ」と、今思えばままごとみたいな活動をしていたこともあり、起業することにしました。大学3年の8月に正式に登記もすませ、2人でかき集めた資本金100万円で、株式会社neoAIをスタートさせました。学科の友だちにも呼びかけ、最初は6人でのスタートでした。
どのようなビジネスを展開しようと考えていたのですか。
千葉 最初の仕事は企業のAI活用支援でした。そこからビジネスを軌道に乗せるための試行錯誤が続きます。今はもうありませんが、一般消費者向けに自分の顔写真やペットの写真をAIでイラスト化するサービスを展開したこともあります。いずれも当時最先端の生成AIの技術を使っていました。最初の1年間は2人とも役員報酬0円でした。それでも学生ですからアルバイトもあるし、生活には不自由はしませんでした。
ビジネスとして芽が出始めたのはいつからですか。
千葉 起業から約半年後の2023年4月以降です。その年の2月か3月にChatGPTが登場して話題になり、一気に生成AIの市場が広まる機運が高まってきました。先行プレーヤーが誰もいない領域ですから、この機を逃すまいと勝負に出ました。4月に外部資金を調達して資本金を一気に5600万円まで増額し、攻勢をかけることにしました。
どのように攻勢をかけたのですか。
千葉 生成AI市場には、巨大IT企業から基盤モデルと呼ばれる汎用的な生成AIが提供されています。ChatGPTもその1つですが、それだけでは実際のビジネスには使えないことがほとんどです。実際に使えるようにするには、業務に関する背景知識と、その企業が持っている大量のデータを組み合わせて社員が使いやすいようにカスタマズしたAIを作る必要があります。そのカスタマイズ部分をビジネスにしていこうと考えたのです。加えて、企業が自分たちでカスタマイズできるようなソフトウェアも開発しました。企業と一緒になって特化型AIを作る仕事と、自前で特化型AIを作れるソフトウェアの販売およびそのチューニングという2段構えでビジネスを展開していきました。この方針が功を奏し、各業界のトップ企業と取引させていただくようになったことで、売り上げも急上昇しました。生成AI市場が立ち上がったタイミングで起業できたことと、周囲に優秀なメンバーがいたことが大きかったと思います。
TOPIC-6
リーダー経験も含め人との触れ合いを大切に

今後の抱負についてはいかがでしょうか。
千葉 AIの世界は圧倒的にスピードが速く、1年前の最先端技術が1年後には誰でも使える技術になっています。ですから勉強し続けることが必要ですが、それでもこの変化の速い世界でビジネスができていることに大きな喜びを感じています。現在は、日本企業に生成AIを届けていますが、将来的には東南アジアを中心に海外市場への進出も視野に入れています。
中高生のAIの活用について何かお考えはありますか。
千葉 AIの使用を禁止する必要はありませんが、ある程度距離を置いてもいいとは思っています。AIの技術を学ぶのもいいですが、動きの速い世界だからこそ、中高生のうちからその世界に閉じてしまうのはもったいない気がします。もっと人生の基礎体力になるようなことを学んでほしいと思います。中高で学ぶ教科はみなその類だと思います。
最後に新中1生に何かメッセージをいただけますか。
千葉 いろいろな友だちと触れ合いながら、勉強を続けていってください。学校には部活動や委員会活動、各種行事などいろいろな活動があり、どこかの領域でリーダーになれる可能性があります。チャンスがあればリーダーを経験しておくこともお勧めします。社会人になってもきっと役立つはずですから。

株式会社neoAI 代表取締役CEO
千葉 駿介(ちば・しゅんすけ)さん
2001年神奈川県出身。開成中学校・高等学校から東京大学工学部に進学。2022年東京大学松尾研究室発のスタートアップとして株式会社neoAIを創業。2024年東京大学工学部を卒業し同大学大学院技術経営戦略学専攻(在学中)。生成AIを中心としたAI技術を駆使して企業の課題解決や新たな価値創造のためのソリューションを提供。ゆうちょ銀行やNTT、テレビ東京、デンソー、サントリー、ANA成田エアポートサービスなど国内有数の大企業をも顧客に持つ。