教育コラム幼児教育実践研究所「こぐま会」 久野泰可 代表 インタビュー
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小学校入学前に育みたい
学びの土台となる「考える力」
非認知能力が問われる時代に
情報の集積や処理をAIが行うようになり、人間ならではの能力が今まで以上に求められるようになっています。また、社会が複雑化したことで、一人で物事を解決することが難しくなり、法務にしろ、医療にしろ、集団で問題解決していくスタイルが増えてきました。それに伴い、従来のようなテストで点数化できる認知能力に加えて、コミュニケーション能力や協調性、がんばり抜く力といった「非認知能力」が重視されるようになってきているのです。
こうした流れを反映して、入試や学校教育の在り方も大きく変わりつつあります。小学校受験においても、近年はペーパーテストに加えて「行動観察」と呼ばれるテストが盛んに行われるようになりました。行動観察とは、子どもが遊ぶ様子を先生方がチェックするというもので、特に最近はチームを作って課題を与え、それにどう取り組むかをみるという学校が増えています。
幼児期の教育が人生を左右する
認知能力と非認知能力、この二つを育てるのに、とても重要なのが幼児期の教育です。2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの労働経済学者 ジェームズ・ヘックマン博士は、著書『幼児教育の経済学』のなかで、5歳までの教育がその後の学びや人生を左右する重要なものであり、国家の教育予算は幼児教育に最も投資するべきであると主張しました。今、世界中がこの考え方に沿って幼児教育の改革をしていこうと動いています。特に韓国・中国・ベトナム・タイ・シンガポールといったアジア各国で幼児教育が重視されています。
では、日本の幼児教育はどうでしょうか。幼稚園や保育園で主流となっている「遊び保育」は、非認知能力を育てるのにすぐれた取り組みとして定評があります。ただ、行事に向かって1年間の取り組みがプログラムされていることで、主体性が育ちにくいという面があります。
また、幼稚園や保育園では、知的な活動に対して消極的なところが多く、そのため小学校からの教科教育にスムーズに移行できない子どもたちが目立ちます。学びの力がついていないために、授業中に座っていられないといった「小1プロブレム」も問題になっています。現場の先生によると、特に算数で苦しんでいる子どもが多いとのことです。
小学校入学に備えて、こうした部分をどう補うか、各家庭で考えておくことをお薦めします。
日々の生活のなかにあるたくさんの教育の機会
学校教育の準備段階として、幼児期に家庭でどんな働きかけをしたらいいのかと悩む保護者の方も多いのではないでしょうか。気をつけていただきたいのが、「幼児教育」とは小学校の教科学習を前倒しして進める、つまり「読み・書き・計算」を教えることではないということです。読み・書き・計算は、成果を評価しやすいため、ついやらせたくなるかもしれません。しかし、ペーパー教材を使って計算をする手だてを覚えていても、実は数の合成や分解が理解できていないというケースが少なからずあります。
幼児期に必要なのは、学びの土台となる「考える力」、「数や図形の概念」「言語能力」をしっかりと身につけることです。
こうした力を育てるために、私どもの幼児教室「こぐま会」では、「教科前基礎教育として、考える力を育てる」ことを重視し、「具体的なモノに触れながら子どもが考えていく事物教育」「自分の考えを言葉で表現できるようにする対話教育」を提唱しています。
ご家庭でも、食べ物やおはじきなどの事物を通じて数体験を重ねることを大切にしてください。こぐま会の「ひとりでとっくん」シリーズといった事物を使う教材を活用していただくのもいいですね。
言語能力については、読み書きの前に、「聞く力」「話す力」を育まなくてはなりません。聞く力があれば、ことばの意味を正しくとらえながら、頭の中でイメージをふくらませ、深い思考ができるようになります。話す力は、自分の考えや気持ちを整理し、表現する力ですから、すべての基本につながります。聞く力を育てるには、絵本の読み聞かせがお薦めです。字が読めるようになっても、小学校3年生ぐらいまでは、読み聞かせをやってあげてください。話す力については、折にふれ、「どうしてそう思ったの」と聞き、自分で説明できるように習慣づけることが大切です。
ご家庭の生活のなかで、できることはたくさんあります。日々の生活のなかにたくさんある教育のチャンスを、大切にしていってください。