TOPIC-3
東大理Ⅲ志望に決め高2冬からSNS絶ち

それがなぜ、理Ⅲ受験へと一転したのですか。
上田 東大志望に固めたのは高3に上がる直前くらいの時期でした。理由の1つは、問題演習の時期になって東大の入試問題に挑戦したとき、「解けた、うれしい」という感覚が芽生え、単純にこのまま頑張り続ければ行けるんじゃないかと思ったからです。もう1つは、東京=ディズニーランドくらいのイメージしかない関西人の私にとって、専門学部に進むまでは全員が教養学部で好きな数学や物理を勉強したり、サークルも多く他学部の学生と交流したりできる東大なら、楽しそうなキャンパスライフを送れそうな気がしたからです。
受験勉強で何か工夫したことはありますか。
上田 理Ⅲを受験すると決めた時点で、腹を括るというか、もう絶対に受験以外のことは考えないようにしようと決意したことを覚えています。それまではSNSにけっこう時間を使ったり、好きなK-POPアイドルのコンサートに出かけたりしていましたが、高3からはバレエやダンスも含めてすべて辞めました。スマホも、家族との緊急連絡用のメッセージアプリ以外は、すべてのアプリを消去し、勉強以外の要素を自分の生活からすべてシャットアウトするようにしました。
かなりストイックに自分を追い込んだわけですね。
上田 今振り返ってみると、よくあんなことができたなと思うのですが、そのときはそうしなければ落ちると自分に暗示をかけていたような気がします。もちろん学校に行けば友だちとおしゃべりもしますし、息抜きに甲子園野球や漫才の勝ち抜き番組、スペシャルドラマなどのテレビ番組も見ていましたが、時間をしっかり区切って勉強に支障が出ないようにしていました。
つらいと思ったことはありませんか。
上田 途中で嫌になったりはしませんでした。あまり気にならなかったというか、気づいたら受験が終わっていたという感覚がいちばん近いと思います。たぶん、勉強すること自体が楽しかったのだと思います。今まで解けなかった問題が解けるようになるなど、受験勉強は自分の努力が正しければ、目に見えて点数に反映されますから……。ただ一度だけ、秋の模試で東大志望者のトップ100には遥に及ばない成績だったときは、一瞬このままだとやばいと危機感を覚えましたが、くよくよ考えている暇があったら1問でも多く解こうと、すぐに気持ちを切り替えました。
TOPIC-4
何でも挑戦しようとミス東大に応募

大学では、どんな活動に力を入れたのですか。
上田 駒場地区キャンパスでの1~2年生の教養学部時代は、相対性理論や振動波動論など物理関連の授業を履修したり、理Ⅰの学生しかいないようなゼミに入って暗号を解読したりと、意識的に幅広く学ぶようにしていました。抽選制のダンスサークルにも運良く入ることができました。1年間封印していたダンスを再開したことで、やはり自分にとってダンスは大きな喜びであることを確信しました。
ミス東大2019に選ばれました。
上田 半ば勢いというか、若気の至りというか……。せっかく東京に出てきたのですから、どうせなら東京でしかできないことをしようとは思っていました。高校の同期とご飯を食べにいったり、遊んだりしているとき、文化祭で行われるミスコンの締め切りが今日までだと聞かされ、楽しそうだなと思い軽い気持ちで応募したのですが、意外にも面接までいってしまい、毎日SNSを更新しなければならないことに。けっこうしんどかったのですが、クラスやサークルの友だちが手伝ってくれたり、応援してくれたりしたことが本当にうれしくて、いい経験をさせてもらったと思っています。結果的にグランプリをとることができましたが、そのことよりもこうした人間関係ができたことの方が大きな喜びでした。
ミス東大に選ばれて人生が変わりましたか。
上田 人生が変わったというほどではありませんが、そのことがきっかけで、ワタナベエンターテインメントにお声をかけていただき、テレビでタレント活動をさせていただく機会を得ました。大学1年の終わり頃からテレビ番組に出演させていただきましたが、ちょうどコロナ禍で大学がオンライン授業ばかりだったため、いろいろなメディアに出させていただいたことで視野を広げることができました。
TOPIC-5
タレント活動に休止符脳神経外科医への道を進む
3年次からはいよいよ医学部に進学します。
上田 駒場時代は好きで取っている科目が多かったこともあって、楽しく勉強していましたが、医学部に入ってからは暗記する量が膨大で、テスト前は徹夜する勢いで缶詰になって勉強することも多く、体力的にはけっこうきついものがありました。東大の臨床実習は4年次の1月くらいから6年次の11月中旬までと他大よりも時期が遅く、国家試験の勉強はそれから急いでやらなければなりません。国試くらい……と気を抜いて落ちた先輩も見ているので、気を抜かずにがんばりたいと思います。
卒業後の進路についてはどう考えていますか。
上田 初期研修でお世話になる病院も決まっているので、あとは国試に合格して医師免許をとるだけです。初期研修中は兼業が禁止されていますし、将来は医師として働いていくつもりですので、タレント業は大学卒業と同時にいったん幕を下ろします。
専門の診療科は決めているのでしょうか。
上田 今のところは脳神経外科を考えています。ハードな診療科ですが、若いうちはたくさん働きたいと思っていますし、脳という臓器にも興味があるからです。手術のスキルを高めつつ、研究にも携われたらいいなと思っています。その先はいろいろ選択肢があると思いますから、当面は脳神経外科の専門医取得を目標に勉強を続けたいと思っています。
新しく中1になる読者に向けて、メッセージをいただけますか。
上田 中高時代に好きなことを見つけられるといいですね。私はダンスに打ち込みましたが、生涯の趣味につながっていますし、ダンスと共に過ごした時間をすごく大切に思っています。とはいえ、友だちと遊ぶことは大学に行ってからでもできますから、中高時代にしかできない楽しみを見つけてほしいと思います。修学旅行や体育祭などみんなで力を合わせて何かを成し遂げることでもいいですし、受験勉強を頑張りたいなら、それをしない理由もありません。目の前のインスタントな娯楽に流されず、将来を見つめながら楽しんでほしいと思います。
医学部をめざしている人にも何か一言お願いします。
上田 医学部はけっこう閉鎖的な空間です。どの大学も1学年100人程度で学生の期間が他学部より長いため、コミュニケーションの幅が狭くなりがちです。ですから、別の職業に就く可能性のある友だちとの交流はとても大切です。視野を広く持っておくということを心に留めておいていただければと思います。

東京大学医学部医学科6年/タレント
上田 彩瑛(うえだ・さえ)さん
2000年大阪府生まれ。四天王寺高校出身。2019年東京大学理科Ⅲ類に現役合格。同年「東大ミスコンテスト2019」でグランプリを受賞。ワタナベエンターテインメントに所属するタレントとして、各種テレビ番組にも出演。現在医学部6年次に在籍。関西人らしくお笑いが大好きで、生粋の阪神タイガースファンでもある。