TOPIC-3
2年半の自分探しを経てしっくりきた経済学の道へ

大学ではどんなことに力を入れたのですか。
小島 入学早々、あまりに優秀な仲間たちに圧倒され、数学の世界では自分の力は全く歯が立たないことを思い知らされました。入学して半年も経たないうちに、夢破れたというか、そこからいわゆる自分探しがはじまります。学問自体には興味があったため、物理だったらどうか化学ならどうかといろいろな道を探しました。スペイン語やイタリア語、古典ラテン語の授業も取りました。学外にも活動場所を求め、インラインスケートの会に参加したり、ロックシンガーを目指してボイストレーニングのクラスに通ったり…。そのために単位が足りず、留年することになってしまいました。
自分探しの期間がさらに1年伸びたわけですね。
小島 インラインスケートの会で仲良くなった友人が一足先に経済学部に進学していて、彼から経済学の話を聞いて興味が湧き、経済学に関連した授業を取ってみたところ、何かしっくりくるものがありました。数学の言葉を使って整理することで、社会で今起きていることが理解できるし、今後の動きも予測できるため、世の中をどうすればいいかということについてある程度自信を持って言うことができる、そこに大きな魅力を感じて経済学部に進学しました。そのまま経済学の研究にのめり込んでいくことになります。
大学卒業後に関して何かビジョンはあったのですか。
小島 最初は経済学を学ぶなら、それを使ってなんぼと思っていたため、就職活動もしましたが、あまりうまくいかず途中でやめてしまいました。ちょうど進めていた研究が先生に認められたこともあって、経済学の分野で食べて行けるかもしれないと思い、大学院に進学することにしました。
大学院はハーバードですね。
小島 現在の経済学はアメリカ中心で、東大の先生からもアメリカの大学院に進学した方がいいと言われていましたから、ハーバードへの推薦状を書いてもらいました。英語の成績は良い方で、留学に必要なTOEFLも当時はライティングの試験もなくリーディングとリスニング、ボキャブラリーくらいでしたから、かなり高いスコアを取っていたことも功を奏したのかもしれません。
ではハーバードでは英語には困らなかったわけですか。
小島 とんでもない、大変でした。全く通じなくて、最終的に就いたハーバードの先生には、今でもいかにひどい英語だったかいじられる始末です。最初は若気の至りで、自分は研究に行くのだから英語なんて話せなくてもいいくらいに思っていたところ、全然話せなくなってしまい、大学が英会話の練習のために学部生をつけてくれたこともありました。アメリカで就職するにはこの英語力ではまずいと危機感を持ったとき、当時ガールフレンドだった妻が助け船を出してくれました。日々の会話を全て英語にするように提案してくれ、しかも日常会話の途中で突然「お前の研究を説明してくれ」と言われたり…。このスパルタ教育のおかげで一時的には英語が話せるようにはなりました。
アメリカで就職するとなるとやはり英語力はネックになりますね。
小島 実は、学術的な面では英語で苦労することは比較的少ないのです。使う言葉は決まっていますし、自分の研究は自分が一番よくわかっているので自信を持って話せますから。困るのは日常生活の方です。例えばSUBWAYというサンドイッチ屋に行くと、どんなパンにするのか、何をトッピングするのか、野菜は何を入れるのか、その切り方は…など、次々に聞かれ、全く知らない言葉がどんどん出てきます。自分のほしいものを頼むことがものすごく難しいのです。現在、英語の重要性が強く叫ばれていますが、安心していただきたいのは、一番大事なのは、自分のプロフェッショナルな部分での知識やスキルだということです。それさえしっかりしていれば、言葉は後からついてくる面もあると思います。
TOPIC-4
楽しんで研究することで社会に役立っていきたい
今後の抱負を教えてください。
小島 大学の教員ですから、まずは本学を選んでくれた学生に良かったと思ってもらえる教育に力を入れるつもりです。ただ、もちろん海外の大学への進学を考えてもいいでしょうし、私自身、大学院を海外で過ごして日本の大学にはない良い面が数多くあるとも感じています。ですから本学を選んでほしいと思う一方で、盲目的にならずにいろいろな大学や進路を見てほしいとも思っています。
研究面ではいかがですか。
小島 研究は、自分が楽しむという面が大きな比重を占めるため、今後も自分の知的興味に従って楽しんで研究をしていくつもりです。結果的に、その研究が世の中をよくするためのヒントになったり、認可保育園のようにダイレクトな制度変更につながったり、企業が適材適所に社員を配置する仕組みに導入してもらえたりすればうれしいですね。幸いにして私はどちらかというと「役に立つ」研究を興味深いと感じるタイプなので、この二つの目標は頑張ればどちらも達成できるのではないかと思っています。
これから中学生になる読者には、どんな中高6年間を送ってほしいですか。
小島 現代社会においては、数学をはじめ基礎的な知識をしっかり身につけておくことが、将来の可能性を広げることにつながることは事実だと思います。でも一方で、そんなことだけを考えず、興味の赴くままにいろいろなことをやってほしいと思います。この“いろいろ”の部分がけっこう大切で、決めつけないことが大切です。私自身、生物学に興味を持ったり、数学者に憧れたり、ロックスターを目指したりと、経済学者になるなんて全く思っていませんでした。当時は、経済学なんて汚い金の学問くらいに思っていましたから。中高生のうちは見える世界が狭いのは当然ですから、そのなかで何かに打ち込むことは大事ですが、他にももっと面白いことがあるかもしれないということは、心のどこかで覚えていてほしいと思います。
新中1の子どもを持つ保護者にも一言いただけますか。
小島 私自身、我が子への接し方に日々悩んでおり、難しい部分はありますが、子どもがいろいろ試すことにある程度寛容でありたいとは思っています。留年して引きこもり状態になったこともありますが、シングルマザーで大変だったはずの母は何も言いませんでした。結果的にそれがよかったと今でも感謝しています。若いときは、いろんなことに迷うのが当然ですから、じっと見守っていてほしいと思います。
東京大学大学院経済学研究科 教授
小島 武仁(こじま・ふひと)さん
1979年東京都生まれ。筑波大学附属駒場高校から東京大学理科Ⅰ類に進学。2003年東京大学経済学部経済学科卒(卒業生総代)。2008年ハーバード大学Ph.D.(経済学専攻)、イェール大学コウルズ財団博士研究員。2009年スタンフォード大学経済学部助教授。同大学准教授、教授を歴任し、2020年現職。専門分野はマッチング理論やマーケットデザイン。

