WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 大船に移転して60年 管理よりも自主性を尊重
  2. 楽しみ方は生徒に委ねる 恒例行事の「歩く大会」
  3. 入試は学校からのメッセージ おもしろいと思ったら挑戦を
大船に移転して60年
管理よりも自主性を尊重
卒業生である建築家・隈研吾氏が設計監修を手がけた新校舎
 

 1947年、本校はカトリックの修道会であるイエズス会によって設立されました。開校当時は、横須賀市田浦の旧海軍施設跡地にありましたが、より良い学習環境を求めて1964年に現在の大船の地に移転。そこから数えて今年でちょうど60年になります。
 本校は見上げる空が大きい学校です。東京ドーム2.4個分の敷地に、体育館が二つ、一周300mの陸上トラック・フィールド、専用の野球場とサッカーコートがあり、テニスコートは7面あります。本校の卒業生である建築家・隈研吾氏が設計監修を手がけた新校舎も2017年に完成しました。2階建ての新校舎は、教室の掃き出し窓からグラウンドにすぐに出られる構造で、休み時間になると生徒たちの多くは一目散に外に出て遊んでいます。
 わたしも本校の卒業生ですが、昔は「不意試験」と呼ばれる抜き打ちテストが度々行われ、一定の成績が取れない生徒は落第させられるような厳格な指導がなされていました。今はそのようなことはなく、生徒一人一人が段階を踏んで学力を伸ばせるように、たとえば授業後の振り返りペーパーをこまめに提出してもらったり、個人面談を通して学習のみならず生活全般について自身の状況や考えを話してもらったりなど、生徒に寄り添った指導を行っています。また、2時間目と3時間目の間の休み時間には、全校生徒がグラウンドに整列し、ラジオ体操第二を行う「中間体操」があります。これは、長らく上半身裸で参加する決まりでしたが、最近では生徒の心理的抵抗を考慮し、1枚であれば服を着てもいいことにしています。このような生徒へのアプローチの仕方の変化からは、生徒に主体性を発揮してもらうことで、学びの本質を実現しようとする考え方が学校全体に浸透していると感じています。

楽しみ方は生徒に委ねる
恒例行事の「歩く大会」
江ノ島から小田原までを歩く「歩く大会」
 

 学校行事のなかで特徴的なものに、すべての学年が参加する「歩く大会」があります。これは、江ノ島から小田原までの32kmをひたすら歩くイベントです。決められた時間までにゴールさえできれば、順位もタイムも問いません。好きなところで休憩してもいいですし、友だちと話しながら歩いてもいいのです。楽しみ方が生徒側に委ねられているところに、本校の校風がよく表われている行事です。
 宿泊行事では、中3の学年旅行(京都)、高2の修学旅行(沖縄)があります。とりわけ独自性が高いのが高2の修学旅行です。高2生は、1年間の倫理の授業のほぼ半分を沖縄の文化や沖縄戦を含む歴史に割き、そこで十分な事前学習を行います。そして2月の修学旅行で、事前学習で得た知識をもとに平和学習や体験学習に臨むのです。
 平和学習には生徒全員が参加しますが、その後は、生徒の興味や関心に合せて20以上のコースに分かれ、現地の方のご協力の下にさまざまな体験型のアクティビティーに挑戦します。三線や琉球舞踊を習ったり、伝統工芸にチャレンジしたりと、その内容は年度によってさまざま。その成果は、地元の観光協会と共同で運営する「コザ栄光祭」と呼ばれるお祭りで披露します。地域の方々との濃密なコミュニケーションを通じて、授業だけでは経験できない達成感や沖縄文化の多様性を味わっています。
 本校はカトリックの学校ではあるものの、宗教行事への参加を強制することは一切ありません。毎週金曜日の放課後には聖書研究会がありますし、イエズス会中高4校(六甲学院、広島学院、上智福岡、栄光学園)の生徒が集まってイエズス会的リーダーシップを学ぶワークショップもありますが、いずれも参加は自由です。キリスト教への興味・関心は大切にして欲しいですが、その教えを必要とする時期は人それぞれですから、教えを学びたい生徒にはいつでも与えられるよう、海外のイエズス会学校との交流を含め、開かれた環境を用意しています。

入試は学校からのメッセージ
おもしろいと思ったら挑戦を
教員の個性を発揮しながら生徒の興味をひく授業づくりをしています。
 

 最近は学外での活躍もめざましく、今年は高3の生徒が国際数学オリンピックと国際化学オリンピックで金メダルを、高2の生徒が国際生物学オリンピックで銀メダルを獲得しました。生徒たちは何か一つ打ち込めるものを見つけると、それが原動力となり、相乗的に学習意欲も高まります。その最初のきっかけをつくるのが、学校の使命だと考えています。
 そのきっかけづくりの第一歩が日々の授業です。本校では、各教科とも、1人の教員が一学年4クラスのすべてのクラスの授業を担当します。それによって、カリキュラムを同じ進度で進めることができますし、クラスによって差が生まれないという利点があるからです。また、細かい授業内容は各教員の裁量に任せているため、どの教員も自分の個性を発揮しながら、教科の魅力を伝えることができます。そして、何より教員自身が楽しみながら授業を行うことで、それに感化されるように生徒の力も伸びていきます。それが本校のおもしろさでもあるのです。
 やがて高2・高3になると、生徒は自分の進路に合わせて授業を選択していくわけですが、たとえば地学のように、履修希望者の少ない科目も必ず開講するようにしています。もちろん、指導を担当するのは地学専門の教員です。このように、需要の多寡にかかわらず、十分な選択肢を用意しておくことで、生徒たちの高い学習意欲に応えたいと考えています。
 毎年、入試問題にもこだわっており、一つのテーマについて深く掘り下げ、受験生の思考力や柔軟性を問う出題を心がけています。入試問題は学校から受験生へのメッセージです。過去問演習では、最初は時間がかかってもいいので、じっくり取り組んでみてください。そして、それを「おもしろい」と感じたなら、ぜひ本校を進学先の候補として考えてもらいたいと思います。
 この夏、受験生の皆さんは懸命に勉強したことでしょう。自分の目標や夢に向けて努力を重ねる過程は、非常に尊い経験です。どうか、健康を第一に励んでください。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 栄光学園中学高等学校 校長 柳下 修 先生 女子学院中学校・高等学校 院長・校長 鵜﨑 創 先生 渋谷教育学園幕張中学校・高等学校 校長 田村 聡明 先生