WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
受験生へのメッセージ
  1. 若者に注目されるタイパ志向は現代人の多忙さを象徴
  2. 知識の詰め込みに偏らない学習や自由な発想、挑戦する姿勢を大切に
  3. 教育の効果は長期間かけて表れるもの 受験勉強には腰を据えて臨む
若者に注目されるタイパ志向は
現代人の多忙さを象徴

 2022年ごろから、Z世代の若者を中心に、タイパ(タイムパフォーマンス)という概念が注目されています。タイパとは「時間対効果」を意味するものです。具体的には、動画を倍速視聴するなど、短い時間でどれだけの効果や満足度を得られるかといったことを指しています。「今年の新語2022」(三省堂)では大賞を受賞し、2023年度の東京大学文科三類の帰国生入試(2023年度外国学校卒業学生特別選考小論文問題〔第1種/第2種〕)にもこの言葉を取り上げた問題が出題されました。今、それだけ注目されているのでしょう。忙しい現代人にとって、タイパの向上は不可欠なのかもしれません。
 しかし、このタイパ志向は、受験勉強にはふさわしくないと考えています。先日、幼児教育関連の講演会で「持続的成長脳の育て方」というテーマの下、「タイパを教育に持ち込むご家庭が増えたのではないかと懸念している」という話をしました。中学受験にも通じるものだと思いますので、ここでも紹介します。

知識の詰め込みに偏らない学習や
自由な発想、挑戦する姿勢を大切に

 現在では動画配信サービスの普及により、映画やドラマなどの映像作品が過剰に供給され、「時間を無駄にしたくない」「とりあえずストーリーを知っておこう」などと、動画を倍速で見る人が増えているといいます。こうしたタイパ志向は、「知っているかどうか」を重視するため、教育現場で活用されると、知識の詰め込みに陥りがちです。確かに、知識量が増えると勉強の成果が上がっているように見えます。しかし、受験勉強で大切なのは結果を出すことだけではありません。受験勉強を通じて学習の土台がつくられたり、そのときに得た勉強法が後々に生かされたりするから、持続的に成長するのです。
 また、最近では、セリフによってストーリーをすべて解説するような映画やドラマが増え、視聴者は間違えた解釈を極力避けられるようになりました。その一方で、「あれはどういう意味だったのだろう」という解釈の余地がなくなり、自由な発想も生まれにくくなったのではないかと危惧しています。「貴重な時間を使って、〝つまらない映画を見る〟という間違いを犯したくないから、事前にネタバレサイトをチェックする」という行為も、失敗を恐れてチャレンジしなくなることにつながるのではないでしょうか。

教育の効果は長期間かけて表れるもの
受験勉強には腰を据えて臨む

 慶應義塾長の伊藤公平先生に「良い学校とはどんな学校でしょうか」と伺ったところ、「10年、20年、そして30年経って、卒業してよかったと思える学校」とおっしゃっていました。「いい仲間と切磋琢磨できたから、この学校に通ってよかった」「いい先生に出会えたので、良い学校だった」などという気持ちは、卒業後長い期間をかけて気づくものなのでしょう。教育の効果も長い時間をかけて評価されるものだと考えています。
 また、元・慶應義塾長の小泉信三先生のことばには「直ぐ役に立つ人間は直ぐ役に立たなくなるとは至言である。同様の意味に於て、直ぐ役に立つ本は直ぐ役に立たなくなる本であるといへる」というものがあります。何かとすぐに役に立つものが求められる世の中ですが、この言葉にあるように、受験勉強にはじっくりと腰を据えて取り組み、お子さんの成長を長いスパンで見守っていただきたいと思っています。

髙宮 敏郎(たかみや・としろう)
1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入社。2000年、高宮学園代々木ゼミナールに入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学して大学経営学を学び、博士(教育学)を取得。2004年12月に帰国後、同学園の財務統括責任者、2009年から現職。SAPIX小学部、SAPIX中学部、Y-SAPIXなどを運営する日本入試センター代表取締役副社長などを兼務。
これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 栄光学園中学高等学校 校長 柳下 修 先生 女子学院中学校・高等学校 院長・校長 鵜﨑 創 先生 渋谷教育学園幕張中学校・高等学校 校長 田村 聡明 先生