WILLナビ:よみうりGENKI 次代を担う人材を育てる中高一貫校特集
次代のリーダーに求められる力とは
─私立 中高一貫校がいま、考えていること─
  1. 毎朝の礼拝と宗教行事 自問自答の日々が自分をつくる
  2. 創立以来定評ある英語教育 ICT活用にも注力
  3. 型にはめるのではなく 「賜物」を尊重する教育
毎朝の礼拝と宗教行事
自問自答の日々が自分をつくる
 

 本校は、宣教師夫人ジュリア・カロゾルスによって1870年に築地居留地内に創立された「A六番女学校」を起源とするプロテスタント校です。本校の一日は、毎朝15分の礼拝から始まります。黙祷を捧げ、讃美歌を歌い、聖書のことばに耳を傾け、お話を聞いて祈り、再び黙祷を捧げる――それは生徒が内なる自分と対話する時間でもあります。静かに瞑想しているように見えますが、頭の中では自問自答がめまぐるしく繰り広げられているのです。礼拝の時間があることで、生徒たちは朝からより良い状態でその日一日の授業に臨むことができるのではないかと思います。
 キリスト教に関連する学校行事の一つに、高3の7月に行われる2泊3日の修養会があります。高3の7月というと、大学受験準備が本格化する時期ですが、これは勉強を目的とする合宿ではありません。では、何をするのか。それは、自らを深く掘り下げ、他者の意見に耳を傾ける貴重な時間です。ふだんと同じように朝の礼拝から始まり、講師による講演を聞き、そこから考えたことについて7~8人の小グループに分かれてディスカッションを行います。翌日には、もう一度、講演の時間を設け、その後に生徒の発表やまとめに入ります。さまざまなテーマについて意見を交わすことで、他者の考えに刺激を受けながら、自分の生き方を見つめ直すことができる大切な機会となっています。生徒にとっては卒業して社会に出ていく前の貴重な時間です。
 われわれが宗教を基盤とする教育で大切にしているのは、心の教育です。わたしもキリスト教学校で学びましたが、今でも鮮明に記憶に残っているのは、聖書のことばや先生から聞いたお話です。キリスト教とのかかわりを通して、人生の困難な時期に助けとなるようなことばが、一つでも生徒の心に残ってくれたらうれしく思います。

創立以来定評ある英語教育
ICT活用にも注力
英会話授業の様子
 

 学校の成り立ちに女性の宣教師の存在が深く関わっていることもあり、本校の教育には「女性だからといって黙して周囲に従うのではなく、堂々と自分の意見を発言できるように」という思いが根づいています。先述の修養会もさることながら、多くの教科でディスカッションを交えた双方向的な学びが行われています。
 語学教育も盛んです。英語の授業では、すでに高いスキルを持つ帰国生も初学者も混在するクラスのなかで、お互いに助け合いながら学びを進めています。仮に発音が苦手な生徒がいたとしても、それを冷やかしたりすることはありません。みんなで高め合っていこうという温かい雰囲気の下、英語の得手不得手に関係なく、積極的な発言が飛び交っているのが特徴です。これは、女子校という、心理的安全性の高い環境だからこそできることなのかもしれません。ちなみに本校の英語学習の目標は、中3時点で英語でのディベートができるようになること。中学では会話を中心に演習を重ね、高校ではGTECなどの検定試験に対応した準備も行いながら、バランスよく4技能を伸ばしていきます。
 この4月からは、生徒がタブレット端末を持つことにより、ICT教育も強化しています。今までは学校が貸し出していましたが、個人所有になったことで、使い勝手がよくなったようです。現在は、常駐しているICT支援員の方に、端末やアプリケーションの使い方について手厚くサポートしていただいています。教員も積極的に授業に活用しており、学びのさらなる効率化に期待しています。
 本校では、各教科で小テストをひんぱんに行い、基礎学力の定着に力を入れる一方で、定期試験の順位や偏差値は公表していません。それは、学業成績の良しあしに関係なく、一人ひとりの個性を大切にしてほしいと考えているからです。

型にはめるのではなく
「賜物」を尊重する教育
修養会は、生徒が生き方について考える貴重な機会となっている
 

 生徒一人ひとりの持つ個性のことを、本校では「賜物」と呼んでいます。神から与えられた賜物を見つけ、最大限に引き出すことが、本校の教育の使命です。中学入学段階では、生徒のほとんどが、自分に与えられた賜物に気づいていません。中学受験に挑む過程では、主にテストの点数や偏差値という物差しでしか評価されてこなかったことも、その原因の一つといえるでしょう。しかし、本校に入学してからは、異なる価値観を持つ友人とのコミュニケーションを通して、思いもよらない自分の才能に気づき、さらには「その力が他者より秀でていなければならない」という呪縛から解放されることが大切だと考えています。もちろん、学業という能力に恵まれていることも一つの賜物ですが、「人間の価値はそれだけで決まるものではない」と教えるのもまた、必要な教育なのです。
 このような生徒の賜物を尊重する価値観は、進路選択にも表われています。ここ数年は医学部志望者が増加傾向にありましたが、今年度は医学部よりも理工系を志望する生徒が多くなってきました。進路の傾向が学年によって異なるのは、本校が生徒を決まった型にはめるのではなく、一人ひとりの賜物を大切にする教育を行っているからです。そのため、本校には「必ずこういう生徒に育てます」というような具体的なビジョンはありません。生徒にはそれぞれの志す道で、それぞれに羽ばたいてほしいと考えています。
 中高時代は悩みも多く、自己肯定感が低くなりがちです。周りの評価が気になり、何事に対しても「どうせわたしなんて」というネガティブな感情がつきまといます。だからこそ、生徒には、聖書や日ごろの授業を通して「一人ひとりが愛される存在である」、そして「自分と同じくらい他者も大切な存在である」と伝えています。そこで安心感を得た生徒は、自分に自信を持ち、自分と同じように他者を大切にすることを学び、大きく成長します。卒業から20年後、30年後の飛躍のために、生徒の心のよりどころとなること。本校の教育の中心は、そのためにあると言っても過言ではないのです。

これからの時代に求められる人材像─中高一貫校で育む力─ 栄光学園中学高等学校 校長 柳下 修 先生 女子学院中学校・高等学校 院長・校長 鵜﨑 創 先生 渋谷教育学園幕張中学校・高等学校 校長 田村 聡明 先生