第1部 特別講演(1)
多様性を深く理解し、国内外の多岐の分野で独創性とリーダーシップを発揮してほしい
創立150周年記念事業として進めていた高校新校舎の建替工事が、この9月にすべて終了しました。A棟にはバスケットコート2面、バトミントコート8面がとれる冷暖房完備の大体育館、B棟には各教科の特別教室、C棟は正面に学生ホール(食堂)があるほか、2、3階が図書館になっており、中学校舎とも一般道路をまたぐ上空通路でつながってアクセスしやすくなっています。第2グラウンドも広くなりました。
開成学園は明治4年、佐野鼎先生によって創立されました。加賀藩の砲術家でもあった知識人の佐野先生は、日本の近代化を見据えて幕府から派遣された遣米使節や遣欧使節に加わって教育の必要性を痛感され、帰国後に本校の前身となる「共立(きょうりゅう)学園」を創立されました。ちなみに両使節団には、今回参加しておられる慶應義塾の創始者である福澤諭吉先生も同行されています。
開成学園の教育理念は、「質実剛健」「自主自立」「進取の気性と自由」、そして、「ペンは剣よりも強し」です。自立した強い精神力を持ち、飾らない人柄によって多くの信頼を集め、率先して新しい分野を切り開いていく人材の育成を掲げています。教育方針としては、まずは楽しく伸び伸びとした学園生活を送り、そのなかで個性を磨き、集団社会の一員として自分の役割を果たす、たくましい大人に成長することを願っています。
運動会や文化祭、修学旅行などの学校行事は、基本的に生徒によって自主運営されます。生徒に任せることで、組織運営を学び合う機会にもなっています。個性あふれる同級生同士、そして先輩後輩が交わるなか、競い合い、そして磨き合い、切磋琢磨していく環境にあります。
勉学はもちろんですが、部、同校会、研究会、委員会活動も幅広く奨励しています。ボート部は昨年インターハイに出場し、サッカー部は今年の東京都私立中学校サッカー大会で優勝しました。文化部では俳句部が、正岡子規の故郷である松山市で行われる俳句甲子園で昨年まで4年連続優勝、クイズ研究部は一昨年に高校生クイズで優勝、数学研究部も国際数学オリンピックに出場して金メダル獲得の実績があるなど、いずれも活発に活動しています。現在、運動部は22、文化部は30、同好会は17あります。5人ほどが集まって顧問の教員を見つければ同好会を作ることができるため、毎年のように新しい同好会が発足しています。
近年、海外大学への直接留学も視野に入れた英語教育や留学支援に積極的に取り組んでいます。英語を母語とした教員が専任2名、非常勤6名おり、日本人教員も英語で授業が可能です。高校では少人数制の英語特別講座を開設し、実践的な英語力の養成と海外大学への進学サポートを行っています。海外サマープログラムへの参加も支援しており、中3と高1を中心に毎年50から70名が参加しています。これらの結果として、高校3年卒業時には卒業生の半数が、英語で議論ができるTOEFL iBT 80レベル、そして10%は海外有力大学が要求するTOEFL iBT 100のレベルに達しており、海外大学への進学支援も積極的に行っています。
卒業生は実にさまざまな分野で活躍しており、そのなかで何名か紹介すると、音楽関係ではショパンコンクールでセミファイナリストになった角野隼人さんや、フランツ・リスト国際ピアノコンクール最高位入賞した嘉屋翔太さん。起業家としては、SF作家の顔も持つAI関連の安野貴博さんや、自動運転技術に関する会社をミシガン大教授と立ち上げた塩野皓士さん。AIの脆弱性を診断する会社をハーバード大教授と設立した大柴行人さんは「フォーブスジャパン」の「世界を変える30歳未満」に選ばれました。そのほかメディアで取り上げられることの多い落合陽一さんや伊沢拓司さんをはじめ、多くの卒業生が多方面で活躍しています。
最後に受験生やお子さんたちへ、まずは十分な睡眠と健康を維持しながら、冷静に、地道に、知力を積み上げていただければと思います。新聞や本をよく読んで社会や世界の動きを学び、自分の考えや意見を周囲に投げかけて議論してください。国の違い、文化や宗教などの背景の異なる人々に対して、また弱い立場や環境の人々に対して、相手の立場に立って考え、自分で考えたことを積極的に発信する努力を重ねていただければと思います。