武蔵高等学校中学校 校長 杉山 剛士 先生

第1部 特別講演(3)
『新生武蔵』の旗を掲げて ― 100年の強み・良さを生かして進化する ―

武蔵は創立102年目の男子校です。1学年4クラスですので、大規模な学校ではありません。東京都練馬区の住宅街に約70,000m2の広大なキャンパスを有し、敷地内にはすすぎ川が流れるなど、とても自然豊かな環境にあります。生徒たちは、自由に、伸び伸びと、自分の知りたいことや好きなこと、楽しいこと、「知好楽」をここで深く掘り下げていきます。

武蔵では建学以来、次の三理想が脈々と受け継がれています。
1つ目、東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物。
2つ目、世界に雄飛するにたえる人物。
3つ目、自ら調べ自ら考える力ある人物。
東西文化融合、世界雄飛、自調自考。わたしはなかでも、自ら調べ、自ら考える自調自考の力を、試行錯誤しながら身につけていくことがとても大事だと考えています。

本校の創立者は根津嘉一郎という、東武鉄道をはじめさまざまな鉄道を敷設した鉄道王として知られる実業家ですが、「社会から得た利益は社会に還元する義務がある」「国家の繁栄は育英の道に淵源する」という考えの下、私財を投げ打って1922年に旧制武蔵高等学校を創立しました。こうした教育で育った武蔵生の特長をひと言で言うと、独創的で柔軟です。独創的ですから、自分の考えや自分の意見があります。時にとんがってしまうこともありますし、変わっているなと思われる場合もあるかもしれません。しかしそれでいて柔軟。人間性の幅が広く、物事にリベラルに接することができる、そうした特長があるように思います。

武蔵はこれまで、創立者の根津が言ったように、真に信頼され、尊敬されるリーダーといえる人物を輩出してきました。早稲田大学総長の田中愛治さん、東京大学前総長で理化学研究所理事長の五神真さん、医療分野ではグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)保険システム部長の馬淵俊介さん、AI研究で知られる松原仁さん、はやぶさの開発リーダーの國中均さん、スパコン富岳の開発リーダーの松岡聡さんなど、各分野で多くの卒業生たちが活躍しています。昨年、iGEM(アイジェム)という分子生物学の世界大会で、当時の武蔵の高2生が他校の生徒とチームを組んで優勝するというニュースもありました。

本校では、一昨年に創立100年を迎えたのを期に、未来に目を向けた「新生武蔵」のグランドデザインを策定しました。「独創的で柔軟な真のリーダーとして、世界をつなげて活躍できる人物」という育成目標を掲げ、そのためにどのようなステップを踏むのかを明確にした成長物語を、1年間をかけ描きました。

何を進化させるのか。一つ目は「さらなるグローバル化」です。「思い切って外へ、もっと先へ」というスローガンの下、海外留学を含めたグローバル教育を充実させます。次に、「進路希望の実現」。「守・破・離」という段階を踏まえながら学びの質のさらなる向上をめざすとともに、キャリアガイダンスなどを通じて立志を刺激します。そして「武蔵の本物のアナログ教育とICT教育の融合」です。実体験にこだわりながら、通常の授業をはじめ、あらゆる場面での情報機器やデータの利活用を進めていきます。今回の教育フォーラムのテーマ「伝統か、進化か。」に答えるならば、「武蔵の良さ、強みを生かしながら、次の100年に向けて進化する」「変わらないために、変わり続ける」ということになります。

多くの行事は生徒の自主運営の下で行われます。三大行事と呼ばれる、記念祭、体育祭、強歩大会も委員長を選ぶことから始まります。選ばれた委員長は組織を編成し、企画を練り、生徒たちは自分たちの責任の下で行事を行います。学校は、予算配分を含めて彼らに可能な限り権限を委譲し、見守る姿勢に徹します。生徒たちはさまざまな機会を通して、自分とは違う考え方や多様性への理解を進め、リーダーとしての資質を培っていきます。

本校の授業は、「本物、実験、討論、発表」を重視しています。生徒たちは「わくわく・わいわい」しながら、日々、学びを深めていきます。武蔵には、「武蔵愛」ということばがあります。背景にあるのは、在校生や卒業生の母校への強い思いです。そうした武蔵の良さをしっかり生かしながら、進化し続けていきたいと考えています。

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