第3部 入試対策セミナー
自発的学習のススメ 3校の入試対策の決め手
難関校である開成、慶應普通部、武蔵に合格するためには、どのような力をつけていく必要があるのか、データを基に解説します。
では、3校の今春の入試結果から見てみましょう。開成は、近年は1100名前後が受験し、合格者は約400名です。若干の繰り上げ合格があるので、実質倍率は3倍を切る程度です。慶應普通部は550名前後が受験し、合格者は200名弱。慶應普通部も慶應湘南藤沢や慶應中等部などと併願される方も多いので、若干補欠繰り上げ合格者が出ます。武蔵も550名程度の受験者に対して合格者は180名前後。武蔵の場合はそのまま進学する方が比較的多いのですが、それでも若干名が他校に抜けますので何名か補欠の繰り上げ合格が出ます。
試験科目の配点は3校それぞれ異なります。慶應普通部は昨年から合格者平均点、合格最低点などを同校のWEBサイトで公表しています。慶應普通部はまず4教科均等配点であること、そして合格者と受験者全体の差を見てみると、どの教科も同じぐらいの差がついています。ですから4教科バランスよく勉強する必要があることがわかります。
一方、開成は算数・国語に比べて理科・社会はやや配点が低いですが、ほぼ4教科均等配点です。開成は年によって教科ごとの合格者と受験者全体の平均点の差が変わります。まず算数、次に国語で差がつき、理科・社会は比較的差がつきません。算数が難しい、あるいは易しいとあまり差がつきませんが、適度に難しい年は算数で大きく差がつきます。
武蔵は開成や慶應普通部に比べて理科・社会の配点が低く、理科・社会ではあまり差がついていません。その分、算数で大きく差がつきます。学校ごとに試験科目の配点は異なり、特に理科・社会は配点が高い学校、低い学校があるので、お子さまの得意・不得意を見ながら学校を選ぶ必要があります。
それでは3校に合格するために必要な学力について見ていきましょう。参考にしたのは小6を対象に昨年の9~12月に4回実施した「合格力判定サピックスオープン(模試)」の4教科の偏差値のデータです。開成を見ると、合格80%ラインの偏差値は68で、偏差値68~72ではおおよそ9割近くが合格していることがわかります。合格者のボリュームゾーンはもう少し下になりますが、毎年、さらに低いゾーンからも合格者が出ています。その一方で、高い偏差値の方でも失敗するケースがあります。これは開成に限らず、入学試験での緊張、あるいは新型コロナウイルスやインフルエンザなどによる体調不良でふだんの実力が出せないお子さま、逆に12月末から1月初めの冬期講習や正月特訓で得点力が大きく伸びるお子さまがいるためです。
次に慶應普通部ですが、偏差値帯ごとに合格者・不合格者の数を表したグラフを開成と比べると、もう少し入りやすい入試だといえます。合格者と不合格者の偏差値分布を見ると4科目の学力が面接や実技に比べて、影響が極めて大きいことがわかるかと思います。
一方、武蔵は、開成や慶應普通部と比べて見ると、合格者と不合格者が同程度で重なっている部分が多くなっています。「合格力判定サピックスオープン」は比較的オーソドックスな、基礎学力を見る問題が出されます。それに対して武蔵は、思考力、記述力を全面に問う問題が多く、お子様の得意分野がうまくはまると学力ラインが少し低いお子さまでも合格の可能性があります。逆に、模試の成績が高いお子さまでも、このような問題を解き慣れていないと失敗してしまうケースが見られます。
各校の併願パターンを見ていきます。開成で、1月に多かったのは栄東、渋谷幕張、市川。昨今、関西の灘、あるいは西大和学園の東京入試からスタートする方も少なからずいます。開成は午前中に3教科、昼食後の午後にもう1教科があります。そのため午後入試の受験率は高くありません。ただし、巣鴨、世田谷学園のように算数1教科で行われる入試が開始してからは、午後入試を受ける方も少し増えてきました。2日に多かったのが、聖光学院、本郷、渋谷渋谷、渋谷幕張。3日は、筑波大学附属駒場、海城、浅野、早稲田、これらの学校が併願校として多くなっています。
次に慶應普通部です。開成と同じような学校が並んでいますが、大学付属校である立教新座や早稲田佐賀の名前も見られます。佐久長聖が多いのは、慶應義塾大学が試験会場で慶應中等部の入試のシミュレーションとして利用される方、神奈川方面の学校なので千葉や埼玉は遠いという方が多く、佐久長聖からのスタートが他校に比べ多くなっています。2月1日、普通部は午後に面接などがあるので、ここも午後入試の受験率は極めて低いです。2日は圧倒的に多いのが慶應湘南藤沢、3日は慶應中等部。4日には慶應湘南藤沢の2次があるので、1次に合格した方はここで2次試験を受けます。
続いて武蔵は、1月は同じく千葉や埼玉の学校が並びます。1日、武蔵は午前中で入試が終わるので、2校に比べると午後入試の受験率がやや高くなります。東京都市大学付属、巣鴨、国学院久我山、獨協などの名前が挙がります。以前、武蔵は2日の夜に合格発表していましたが、現在は3日発表なので、以前に比べて3日の受験率が高くなっています。海城、早稲田などが比較的多いです。
次に算数の試験問題です。開成の算数は、大問が3題から4題で試験時間が60分。年々問題文が長くなっており、きちんと問題文を読んだうえで、その場で試行錯誤しながら調べていくタイプの問題が多く出されます。受験者や合格者の平均点を見ると、毎年、我々の想定よりも少し高めになっています。ということは、途中の式や考え方もしっかり見て採点されている可能性が高いと思います。
慶應普通部は、試験時間は40分ですが、問題数は多いです。問題文が開成と比べて短いので簡単かと思いきや、実は結構難しい。きちんと過去の入試問題を練習していないとなかなか点数が取れません。普通部も解答用紙に式などを書く欄があるので、しっかり書いておく必要があります。
武蔵は、比較的手のつきやすい問題、応用的な問題、そしてその場で初めて見るような、調べ上げ系の武蔵独特の問題が出されます。同じく式や考え方も部分点の対象になるので、しっかり書くことが大切です。
どのような問題が出されるのか、算数以外も少しご紹介しましょう。先ほどの講演やパネルディスカッションでは「生成AI」や「ChatGPT」の話題もありましたが、今年の開成の社会では、さっそくAIが取り上げられ、AIの回答として不適切なものを選ばせる問題が出されました。社会の動きに関心を持っているかが問われます。慶應普通部の理科では、キャンプの場面で、焚火にマッチで火をつける際に火が最も長持ちするマッチの持ち方を選ばせています。入学後の理科の実験を想定していることがうかがえます。同じく武蔵の理科では、火山の噴火でできた地層から採取した石などの成分を問う出題がありました。これも実験や観察を重視する武蔵らしい問題といえるでしょう。
このように、入試問題はそれぞれの学校が求めている生徒像や教育方針が反映されます。その学校に合格したいと思えば、過去問をしっかり学習して対策していく必要があります。来春以降の入試でお子さまが合格し、先ほど先生方から紹介のあったすばらしい学校とご縁があるよう、私どももお子さまに寄り添いながら精いっぱい応援させていただきます。